ライアン孤独な海賊王

一文字拳 序章 -最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い-のライアン孤独な海賊王のレビュー・感想・評価

4.0
今の若手クリエイターはほぼ平成生まれだと思うのだけど、その中に一定数どういうきっかけかはさておいて、彼らが生まれた30年以上も前の昭和時代に流行ったポップカルチャーやサブカルチャーに多大な影響を受けている人達が存在する。本作の監督である中元雄もその1人。

日本のTVドラマや特撮作品、ブルース・リーやジャッキー・チェンの香港カンフーアクション映画、SFヒーローが活躍する海外作品が大好き過ぎて、挙句自分で好きなもの詰め込んで作ってしまおうと行動に出た結果『NAKAMOTO FILM』なる映像制作集団が出来上がった。そんな彼らが作り上げた本格カンフーアクション映画が本作である。

このCG全盛の時代においても生のスタントアクションに拘った作品は今も存在するが、かつて映画界を席巻し1ジャンルを築いた、俳優達本人がスタント無しで全てのアクションを演じる香港カンフーアクションはその輝きを失って久しい。ブルース・リーの急死からその意思を受け継ぎ、かつブルース・リーにはなかったコメディ要素も取り入れた新たな香港カンフーアクションを作り上げたジャッキー・チェンも近年は流石による年波には勝てず。時代はCGとワイヤーアクションを組み合わせた新世代のアクションに移行した。もちろんそれはそれで時代の最先端に相応しい映像表現であることは間違いないのだが、それと共に失われてしまうものに寂しさを感じていることも否めなかった。

そんな中にあって、中元監督は、茶谷優太という類まれな身体能力を持った才能に巡り会ったことで、インディーズ映画故の低予算でありながら、かつて自分が夢中になった失われようとしている本物の香港アクションを現代に甦られた。ブルース・リーやジャッキー・チェンの作品を夢中になって観ていた昭和世代の人はもちろん、今の人達にはCGに頼らない生の格闘アクションはとても新鮮に写ったのではなかろうか?

80年代お約束のベタでツッコミどころ満載のトンデモなストーリー展開。醸し出す古臭さやダサさはそれだけでコメディ。その上でオマージュと言うにはあからさまなパロディもそこかしこに仕掛けられていて、元作品知ってる人は笑える要素がたくさん!それらがあるからこそ人間が身体能力の限界を振り絞って動き回る生の格闘シーンの凄さがまた浮き彫りになるんだよな。

主演の一文字優太を演じた茶谷優太さんは器械体操の経験があるらしく、軽やかなバク転やロンダートを殺陣に組み入れていた。どちらかと言えばジャッキーのカンフーアクションよりも東映特撮ヒーローものの軽やかなアクションに近い。一方敵役の改造人間13号、こちらは日本の伝統の殺陣のように一挙手一投足に重みが感じられた。アクション好きにはこういった細かな違いも楽しんで観てもらえたら。

観終わってみて、意図的なベタドラマとしての面白さは感じられるのだけど、もう少し会話にテンポと流れが欲しかったな、と。ラストの戦闘シーンに至るまではずっとのっぺり進んでる感じがして。面白いんだけど、没入感に浸って楽しめるところまではいかなかったかな。そこが少し残念。

そして今回は『帰って来た一文字拳 最強カンフーおじさんVS改造人間軍団』も併映された。本編のスピンオフにして本編の3年後を描いた続編としての位置づけもある。昨年から今年にかけて池袋シネマ・ロサでレイトショー公開された各作品の主要出演者達を集めたオールスターキャスト、レイトショー公開が決まってからわずかな時間で撮影したとは思えぬほどクオリティが高かった。正直ストーリーとしての面白さは本編よりこちらが上。どうせ遊ぶならこのぐらい遊んだ方が突き抜けた面白さがあってお客にはウケると思う。