しゅん

オーファンズ・ブルースのしゅんのレビュー・感想・評価

オーファンズ・ブルース(2018年製作の映画)
4.0
エドワード・ヤンやレオス・カラックスの影響を見せつつも、それだけで終わらないなにかがある。端的に、傑作である。
近未来の「終わらない夏」という設定がまず優れている。夏しかない世界はアンリアルだけどリアル。それはおとぎ話のようで、これからの世界の話でもある。カットソーとジーンズをダラっと着る村上由規乃の目付きがとても良く、蛇口の反復や電話ボックスやビール瓶の効果は彼女の存在感の上で輝く。

青春ロードムービーの形式と光の強い鮮やかな映像の中に、老いと死の薄昏さが忍び込む。何かを探しに行く旅が、実は失われゆくものを繋ぎとめようとして失敗する物語だと気づいた時の驚き。この映画の中心はヤンではなくエマだ。アップで映される汗ばんだ肉体は生々しく、にもかかわらず彼女の存在は死との戯れをやめず、輝くままに朽ちていく。すすきの実がゆれる中での歯磨きは、喪失前の最後の煌めきとしてあまりにも綺麗だ。幼さと老いが同時に立ち現れる様は今の僕らにとっては残酷なほどに現実的で、それがとても眩しく美しくて、どうにもたまらない気持ちになった。何はともあれ、今観た方がいい。
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