ラウぺ

誰がために憲法はあるのラウぺのレビュー・感想・評価

誰がために憲法はある(2019年製作の映画)
3.8
冒頭、テレビにあまり出ない(=出して貰えない)というピン芸人・松元ヒロの十八番、「憲法くん」を渡辺美佐子が演じています。
このインパクトは凄いのですが、それは後述するとして、映画はそれに続いて渡辺をはじめとする女優陣が33年間続けてきたという原爆についての朗読劇の様子を映し出します。
この朗読劇「夏の雲は忘れない」はヒロシマ・ナガサキで被爆した子供や大人の手記を元にしたもので、普通の暮しが一瞬で奪われ、筆舌に尽くし難い惨禍に見舞われた人々の苦悩をテーマとしています。
渡辺にとってこの朗読劇は小学生のときに出会った少年の運命と結びつき、特別の想いで演じ続けてきたことが描かれ、それは他の女優にとっても同様の想いであったことが分かります。

日本国憲法はこうした戦争の惨禍の果てに、新しい時代を拓こうとする民主国家としての理想を具現化するために成立したものであったことが改めて想起されるのです。

冒頭と最後に再び渡辺演じる「憲法くん」が朗読するのは日本国憲法の前文で、その内容を改めて朗読という形で聴くと、その崇高な理想主義、民主国家としての国の目指すべき指針が非常に明確に、揺るぎない決意とともに語られていることを改めて認識するのです。
近年特に騒がしくなってきた改憲論議については一切踏み込まず、前文の朗読のみで映画を締め括る監督の意図するところは、おそらくは、この前文の全てを改めて読んで貰って(二回目には背景に字幕が大写しされる)、アメリカに押し付けられただの、現状に合わないだの、という成立過程や現下の世界情勢だのといったことを論議する前に、この前文に書かれた趣旨を、その理想とするところを改めて確認し、そのうえで改憲の是非についての出発点として貰いたい、との考えがあってのことなのだと理解しました。
この、世界に臆面なく真正面から平和主義と理想的民主国家のありようを提示した前文の前に立つとき、現憲法のどこを変えて、どこを変えてはいけないのか?が、圧倒的な熱量をもって体の内側から沸き立つのを感じて劇場を後にしたのでした。

正直、タイトルと内容からして、ドキュメンタリーとしては少々いびつな内容である点は否めませんが、やはりこの前文の持つインパクトを再認識するためのトリガーとして、この作品の持つ意味は非常に大きなものがあると思います。
ドキュメンタリーとしての点は低めにならざるを得ませんが、この作品の持つ重要さは、4.2くらいは出すべきと思います。
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