調伏系V魔虚羅

バスターのバラードの調伏系V魔虚羅のレビュー・感想・評価

バスターのバラード(2018年製作の映画)
4.0
荒唐無稽なものから深遠な話まで、コーエン兄弟による、アメリカ西部を駆け抜けた無法者や開拓者達の6つの死にまつわる物語。

Ⅰ. 荒野にて、歌いながら馬を走らせる懸賞金の掛けられたならず者。自身の腕の良さを自慢げにこちらに語り掛ける男はあるバーに立ち寄る。上には上が、早撃ちには更に早撃ちが存在する。永遠には勝ち抜けやしない。それでも陽気に歌を口遊ながら、ホルスターから銃を颯爽と抜く、ひたすらにカッコイイならず者達の生き様。

Ⅱ. 老人が一人で切り盛りしている荒野にポツンと立つ銀行に強盗をした事から始まる災難。度重なる災難にあっても何故かけろっとしていてまるで他人事の様に、村で見付けた自分好みの可愛らしい娘に微笑みかける男。なんだろう、少し元気が貰える。

Ⅲ. 両手、両足の四肢が欠損しているが、口が達者で、旅の行く先々で御伽噺を聞かせて金を稼いでいる少年と、馬車の運転兼少年の世話をする男の物語。”慈悲は強いられることなく優しい雨の様に天から降り注ぐ“。ただ降り注がれるのを待つしかない慈悲という名のあまりにも残酷たる少年に対する所業。慈悲だと云うのならば、それは人間の身勝手なエゴに過ぎない。

Ⅳ. 長閑な山脈で金を求める一人の老人。だが、採れるのは川に流れている小さな砂金ぐらいで目立った収穫は無し。ただ男の荒い息遣いと鳥の囀りが山々に反響すると共に何も無い時間が流れるだけだったが…。貪欲に穴を掘り進めたその先。努力したものに突き付けられる背後からの銃口。いつだって、他人が必死に築き上げたものを横から掠め取ろうとする者がいる。それに仕方ないと諦めるか、足掻くだけ足掻いてみせるのか。

Ⅴ. 借金を残し、死んだ兄の漠然とした将来予想図に振り回され、一人で孤独に旅をする妹と、優しき旅の案内人の男。家庭を持ち、何処かで農場を経営しながら落ち着きたい案内人と徐々に惹かれ合っていく娘。だが、旅の中で襲い掛かる災難。哀しいかな、旅は運命も道連れにする。

Ⅵ. フォードモーガンに向かう馬車の中、それぞれ他人である5人の男女。ぶっきらぼうで小汚い猟手の老人、道徳と精神衛生の講師をする博士を夫に持つ、敬虔な教徒の婦人、フランス人の賭け事好きな男、そして唯一素性の知れない、謎の2人の紳士。6つの物語の締め括りは、オチとして使われる間接的に描かれる”死“ではなく、”死“そのものを描く。その死を受け入れるか、拒むのか。一瞬の気の迷いで死神の道楽によって刈り取られる私達の命のなんて弱々しいことか。
調伏系V魔虚羅

調伏系V魔虚羅