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バスターのバラードのJIZEのレビュー・感想・評価

バスターのバラード(2018年製作の映画)
3.8
賛:分厚い古書のページを一枚一枚軽快にめくるような芸術的で洒落っ気たっぷりのブラックな含みを仕込むコーエン兄弟の新たな手腕によって6つの短編から成り立つオムニバス映画が生き生きと輝いている。また西部劇の古風な世界観を共通して張り巡らせた事でシンクロニシティ的な繋がりあうような奥行きがどれもに共通してあった。風刺やアイロニーを盛り込む事でどの物語も脚本が映えていたように感じる。新たな短編傑作が誕生してしまった。

否:短編特有の満腹感はほどほどに"映画"というフレームワーク内では可も不可もない独特の濃度を保った味わいだった。またどれものメッセージ性がドスンッと効いたアクセントの強い作品なので映像単体での鑑賞を好む人にはブラック濃度が濃い作品かもしれない。投げ掛けてるメッセージ性や余地を残す事で賛否が割れる作品である事も致しかたないだろう。登場キャラたちが楽観主義で明後日の方向を向いてる感じも掴み難い印象を覚えなくもない。

西部開拓時代におけるアンニュイ語り口や童話の世界をめくるめくような橋渡しの構造が"バスターのバラード"をリードストーリーに置きつつもそれぞれの個性が時代背景を基に呼応し合っていたような気がしました。まさかNetflix配給でこれほどの贅沢な作品が手元の媒体で観れるとは思ってなかったので感謝でしかない。個人的に"金の谷"と"早とちりの娘"がワンシチュエーションの舞台を盛大に活かしており独特で好みだった。何より近年のコーエン兄弟の進化の域を実感させる高質な短編集である。
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