「この映画が公開されれば、トランプ王国は必ず崩壊する」と言ったマイケル・ムーア監督は“革命”を成し遂げられるのか--。その行方を見とどけるため本作は、できれば11月6日の米国中間選挙前に観たほうが良い。
ムーア監督がトランプ大統領にアポなし突撃取材をするわけではない本作は、これまでの作品からすれば物足りない面はある。しかし、トランプ大統領を誕生させたアメリカに対するムーア監督の危機感とそれに立ち向かう本気度をとても強く感じる、今、観ておくべき映画だと思う。
トランプは何故、大統領になれたのか。根本的には大多数を占めるであろう自由と多様性を愛する“本当の”アメリカ人が諦めてしまったからだ。トランプは嫌だがマスコミはあてにならないし、なにより民主党に失望した、もう選挙にはいかない、と。民主党がトランプ大統領を誕生させたと言っても過言ではない。
歴史は繰り返す。このまままの状況が続けば「いつか来た道」に逆戻りする懸念がとても強い。だからムーア監督は必死で、本気なのだ。
<「11月6日の中間選挙(上院の3分の1と、下院の全議席が改選)を見据え、反トランプの政治家たちへの呼びかけとして作った。」><「僕らはおそらく、勝つより負ける。なぜなら今の段階では敵の方が数多く見えるから。だけど、僕らは今、闘わないといけない。それも、必死で。」>(引用元はパンフレット、以下同じ)
<「ムーアと僕らが向き合うことになった最大の難題は、焦点を見失わないことだった。トランプの日々の放言に反応するのではなく、なぜ彼がそんなことを言うのか、また僕らにとって本当はどんな意味があるのかを分析し、理解したかった。人々を目覚めさせたいという、これだけ明確なミッションを持ったマイケルは初めてみた。」(プロデューサーのカール・ディール)>
自分が知らなかったアメリカの抱える恐ろしい危機的な状況は、本質的には日本も同じではないだろうか。以前ならとっくに失脚してもおかしくない日本のトップが長期政権を維持しているのは「じゃあ他に誰がいるの?」という諦めだろう。
そうしたなか与党は、憲法改正論議で、非常事態の際に政府に権限を集中し、国民の権利を制限する「緊急事態条項」を盛り込もうとしている。この条項が今のような状況において、どんなにリスクの大きいことかは本作を観るととても良くわかる。
<「(略)この11月、投票者が投票所に押しかけるようにしないといけない。2016年には、そうならなかった。別の国に住むあなたたちも、(きっと変わるだろうと)楽観して11月6日を待っていてはダメだよ。僕らは負けるのが得意なんだから。勝つべき時にも負けてしまうんだ。この国のリベラルは、今、本気で、真剣に取り組まないといけないんだ。」>(マイケル・ムーア監督)
アメリカで起こることは日本でも起こる。日本の一番の政策はアメリカ追従だから。本作の内容や米国中間選挙の結果は、決して「対岸の火事」や「他山の石」ではないと思う。