mimitakoyaki

華氏 119のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

華氏 119(2018年製作の映画)
4.1
マイケル・ムーアの作品は結構好きで、いくつも見てきましたが、今回もアメリカを良くしたいという熱き想いがガンガンに詰め込まれて、それゆえに情報量がかなり多く、トランプ大統領批判だけにとどまらず、トランプを生み出したアメリカの抱える問題、選挙制度、民主党批判、さらにはトランプがお手本としてきたミシガン州知事の下で起きている信じ難い人災などなど、話題をギュッギュと押し込んであるので、その熱量と情報量の多さに溺れそうになりながらも、民主主義に関する考察にはとても共感できるし、見応え充分でした。

アメリカの選挙制度って、1人1票ではなくて、州ごとに決められた選挙人の数でポイントが加算されていくやり方なので、ヒラリーの方がトランプより得票が多かったけど負けるという結果になりました。
かつ、それだけではなく、ヒラリーがちゃんと国民の方を向いてなかったから自滅したところもあったようで。

あとわたし的には、前からアメリカって何で二大政党だけなのかそれがすごく疑問で、トランプだって共和党の人間じゃないし、民主党からの大統領候補を選ぶ予備選でヒラリーに勝ってたのに党内のカラクリによって選ばれなかったバーニー・サンダースだってそもそも民主党じゃないんですよね。

なのに、共和党か民主党からしか出馬できないっていうのが不思議。
もっと多様な政党があれば良いのにと思ってしまいます。
二大政党制ってどうなん?と、この作品を見てますます疑問に思いました。

日本でも同じですが、政治家は大企業から献金をもらってるから、そっちの方ばかりを向いてしまうし、変な選挙制度のせいで民意も反映されてるとは言い難いしで、そういう事が政治不信になって投票しない人が一番の大きな勢力になってしまってる。
選挙に行かない人が増えると、支持が少なくてもそれが「民意」とされてしまうから、それって現実の国民の思いと乖離してしまうし、民主主義の危機でもあるわけで、ムーアはその事に対して警鐘を鳴らしています。

日本でも小選挙区制だと勝つのはほとんど自民党ですよ。
1位以外の票はすべて死票になるから、当選者はせいぜい20%そこそこの支持しかなかったりもして、それで民意が…って言われて大きな顔されてもね、といつも思います。

貧困、失業、学費、医療費、銃犯罪、移民問題、膨らむ軍事費、差別、マイノリティの権利などなど、いろんな問題を抱えていますが、それを良い方向に変えてくれるだろうと期待してこれまで民主党やオバマ大統領に投票した人達を裏切りガッカリさせるような事をしてきた民主党への批判もかなり辛口で、ムーアは以前から民主党支持を公言していたから、その事に驚かされましたが、すごく健全で正しい姿勢だと思いました。

一番衝撃を受けたのは、ムーアの出身地であるフリントのあるミシガン州のスナイダー知事のやり口で、この人、会社を経営する大富豪で、差別主義者。
トランプとそっくりです。
というか、トランプがこのスナイダーをお手本にして手口を真似てるのです。

スナイダーは、大きな災害や事件があったわけでもないのに、非常事態宣言をし、市から権限を奪い独裁体制に。
水道を民営化し、フリントの水源を湖から川に変えて新たなパイプラインを作ると、川の水やパイプが鉛で汚染されていたために、主に子ども達に深刻な健康被害が出始めました。
しかし、問題を隠蔽、データを改ざんし、水は安全で問題なしとして嘘をつくという恐ろしい事態になっているというのです。

かつては自動車産業で栄えたフリントの街も、今は寂れて水も汚染され、貧困層の住む荒んだ街となってしまいました。
でも、その街に住む人達が必死で声を上げている姿には心打たれるし、ウエストバージニア州では、低賃金にあえぐ公立学校の先生達が、学校職員の賃上げなどを要求して大規模なストライキを実行し、それが大きなムーブメントとなっていったこと、フロリダの高校での銃乱射事件をきっかけに、サバイバーの高校生達が中心となった銃規制を求めるデモがアメリカ全土に広がり、ライフル協会から献金をもらっている議員を落選させる運動を起こしたり、#MeToo運動しかり、自分達の生活のために、命や健康を守るために、尊厳と平等の権利を求めるために立ち上がる多くの人達の存在に、わたしはとても勇気付けられるし、感動で胸がいっぱいになりました。

アメリカってこんな酷いの?ってショックも受けましたが、でもやっぱり政治への参加意識は高いし、高校生達が行動するなんて、これから有権者になっていく彼らは大きな希望です。
無関心が一番怖いし無責任。
自分が変える力を持っていると信じたいです。

かつて世界で最も先進的だったワイマール憲法を持ちながら、ナチスの独裁を生んだ歴史の経過とトランプ政権下にある今のアメリカの類似を指摘していましたが、日本も全く同じだと思いました。

敵(今だと移民、或いは北朝鮮)が攻撃してくると不安や不信を煽り、強い国になろうと扇動し、メディアもそこに加担する。
差別が蔓延し、情報は透明度を失い、隠蔽や改ざん、不正がまかり通る。
(時にはでっちあげてでも)非常事態だと言って憲法や議会を無力化し、全権委任させ独裁体制を作り上げる。

そうなる前に、考え行動すること、必ず選挙権を行使することの大切さをあらためて感じました。

さて、中間選挙の結果が間もなく出ますが、どうなるでしょうか。
とても注目しています。

108
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