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華氏 119のumisodachiのレビュー・感想・評価

華氏 119(2018年製作の映画)
3.1
公開されたばっかりだというのに、引くくらい客が少なかった『ア・ゴースト・ストーリー』に対して、こちらは公開してからそこそこ経つのにそれなりに人が入っていた。おなじみマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー。

痛烈なトランプ批判だと思って観に行ったが、トランプが選ばれてしまった要因を探っていくドキュメンタリーだった。もちろん、監督自身の確固たる政治理念に基づいて極端な編集が施されている部分が大きいので、この作品自体にもある程度批判的な眼差しを持って臨まないといけないわけだが、ミシガン州フリントで起きた水道汚染問題には驚いた。

恥ずかしながら、この問題を今まで知らなかった。ミシガン州フリントではそれまでデトロイトのヒューロン湖から水道を引いていたが、近場のフリント川に水源を変更した。しかしフリント川は水質に問題があり、腐敗した水道管から流れ出した鉛が市民に被害を与える結果を招いてしまった。州当局はこれを放置。「水質は改善された」などと言い張り、事態はさらに悪化していった。

住民の多くが黒人だというフリント。画面の中の人々は鉛に汚染された水に怯えながらも、半ば諦めていた。ただでさえ貧しいのに、水質汚染の悪評のせいで家を売ることもできず、他に移りたくても移れないのだ。水源を変更した理由や、州当局の対応などを説明した部分にはマイケル・ムーア監督の主観が入っているにせよ、水道汚染により多くの市民が地獄のような目に遭ったということは事実なわけで。心が痛んだ。

更にそれに追い打ちをかけた事実として、マイケル・ムーア監督はオバマ前大統領を糾弾する。彼はフリントにやってきて、水道水を飲んで見せるというパフォーマンスを行ったのだ。その後に続く通告なしのフリント市街での軍事演習という流れにも驚愕したが、結果的に私にとって『華氏119』の中で最もショッキングなシーンは、オバマ前大統領にまつわるものになった。

トランプを誕生させてしまったのは純粋な共和党支持ではなく、民主党ひいては民主主義への失望だったというマイケル・ムーアの主張は、ある程度説得力を感じさせるものだ。突然世界が変わったわけではなく、ずっと前から兆候はあったのだと。そして、それは人類が繰り返してきた歴史そのものだと。監督が提示するひとつひとつの分析は批判・検証されるべきだが、国民の無関心や失望がこの結果を招いた、という大枠の考え方には賛成するしかない。日本だって同じなのだから。

NYに行ったとき、銃規制を訴える学生の大規模デモと遭遇したことがある。プラカードを手に持って、デモの開始時間を待っていた彼らはまだあどけなかったが、表情は義憤と希望に満ちていた。世界は崩壊に向かっているのかもしれないが、彼らのような若者がいることは救いだ。その点はマイケル・ムーア監督に全面的に同意したい。彼らの瞳に、決して絶望の色を宿してはいけない。

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