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ジョーカーのAnima48のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.6
悪のカリスマというより、”普通の仕組み”からこぼれてしまった哀しみ、焦燥感、劣等感、疎外感かなそういったものが感じられて…。

愛を求めても、得られない。愛どころか、当たり前に思っていた世界が壊れていく。

裏切りで職を奪われカウンセリングも打ち切られる辛い現実、それでも善人であり続けるための大切なピースだった母からは実は虐待されて騙されていて、自分のオリジンすらあてにできない。

憧れた人に出会う白昼夢にすがるけれど、現実ではその人公共の電波を使ってアーサーをいじり、酷い世界にいる自分を高みから見て嗤い、チャンスを与えるふりしてまた突き落とすだけ。

好きになった人との関係も自分の妄想の産物、結局アーサーと心を通わせた人はほとんど居なかった。与えられた好意・善意は上辺だけのもので、アーサーが触れた感情は、嘲り、怒り、恐れ等ネガティブなものばかり。

人との関わりも持てず、生き抜く術もない、善意でもって動いてもアーサーにとって世の中はわからない、逆に冷たく理不尽な現実を見せられるだけ。

それで…変わらない世界を生き抜く為に、変わらない世の中を変える為に、アーサーは違った世界観を持った別の人として生きるようになる。ピエロという仮面の下で、ピエロの物の見方で。

誰でも生きて行くには仮面を被らなくちゃいけなくて。仕事に熱心な会社員とかいつも明るい人気者とか。でも、それをずっと被っていると自分を覆う殻になって、本当の自分の思うように生きていけない。

他のバットマンムービー、たとえばダークナイトでは、仮面を外せなかったブルースは、最愛の人と結ばれなかったし、デントは自分の仮面を壊されて、半分の酷い仮面をつけることになる。
でもジョーカーにとっては、もうアーサーに戻ることなんてないんだろう。ダンスの上達度合いが、ジョーカーへの変貌の度合いなんだろうなあ。

あの階段を上がる時アーサーは肩を落として登っていく先は暗くどんよりしているけれど、反対に降りる時は、爽快感があって階下は明るくなっている。

バットマンは悪徳や犯罪からあの街を救いあげる対象として高い場所から見下ろしてるんだけれど、ジョーカーは、偽善の上に辛うじて存在している街を剥き出しの現実、混沌に満ちた悪、貧困しかない底辺に引き摺り落とそうと見上げてるんじゃないかな?

社会的に表に出ようとするとつらいことばかり。社会に背を向けた=アウトローになって初めて彼の人生は始まったのかもしれない、それはアーサーとしてのものでなかったとしても。

・・でもこれ、彼の作り話なのかもしれない。ジョーカーにとって過去なんてただのジョークでしかなくなったのかもしれない
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