なべ

ジョーカーのなべのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
3.7
観てきた!
でも、ハードル上げ過ぎてたのかな。こちらの予想を超えてくるような、斜め上を行く作品ではなかった。
いや、そこそこおもしろかったんだよ。まじめに丁寧につくられてたし、ホアキンのひたむきな演技には感心したよ。だけどやっぱりヒース・レジャーのジョーカーの方がヤバいんだよなあ。てか、まじめに一生懸命頑張ってジョーカーを演じてるのがわかるってどうなの?
きっとホアキンは頭がいいんだと思う。そしてまじめなんだな。ジョーカーの向こうにホアキンの善性がちょっと透けちゃうのよ。もちろん善性が見えてもいいんだけど、それならばその善性のせいでひいい!となるような演出をして欲しかった。
悲惨さとか絶望とかは描かれてるんだけど、肝心の狂気や混沌が弱い。仕上がりが上品なのだ。こっちは禍いものをもらう覚悟で臨んでるんだけど、まろやか仕立て。もっと忌まわしさ必要でしょ!
最初は同情してたのに、物語が進むにつれて、あれ、こいつ変だぞ、うわあ、こりゃ同情できんわ、ひいい、こいつ最低だな!ぎゃあ、こわい!そんな加速する忌まわしさを期待してたんだよね。

たぶん、問題は脚本と演出だろうなあ。説明が過ぎるのだ。説明的なシーンごとに「うん、それ知ってた」ってげんなりする。ホアキンの演技が気合入ってるので、ちゃんと観てさえすれば、いちいち種明かしされなくても充分わかるのだ。余程のバカでない限り。百歩譲って、どうしても説明したいのならヒントやほのめかしで十分。わかってることをいちいち追い討ちかけるように説明さらたら興醒めするしかないよ。観客のリテラシーををみくびってるところにイラッとくるのだ。と同時に、演技力や映像の力を信じてないことにも腹が立つ。身内が信用しないでどうする。これじゃ橋田寿賀子だよ。
せっかくセンスある映像で感動してるのに、説明的なセリフのせいで、印象の浸透や広がりがいちいち阻まれるのだ。言わなくていいセリフのせいで、せっかくの演技が台無しになってるのだ。結局よかったのは台詞のないシーンだったというね。
こういう負の作品では疑問や訝しさがとても大事なエッセンスなはず。そういう余白が解釈の余地を生み、作品に広がりや奥行きをもたらすからだ。余地がないと物語をそのまま受け取るしかない。傍観者でなく体験者にならなくては意味がない。その結果、かわいそうではあるけど、あの不幸体験でこんなモンスターになるかなあと、そもそもの部分に共感できなくなっちゃう。

カメラや役者の演技に関しては、ハッとするほど美しいカットや、ゾクっとくるほど決まった表情など、それだけで特別な作品になり得る要素がいっぱいある。それだけに惜しいのだ。できれば極力セリフを削ぎ落としたバージョンが見たい!
そういう意味でこの映画は演技や映像は晴らしいのに、脚本家や演出がヘマをしたもったいない作品だ。映像と音楽だけでもう十分成立してたのに。
本来なら鳥肌が立ったり、居心地が悪くなってもおかしくない話なのに、最後までぼくのからだと精神はフラットなままだった。疲れることもなかった。残念。

ただし、状況説明な台詞に違和感を感じず、そのままミスリードに乗っかり、種明かしで「うわあ、マジか!」ってなれる人にとっては、もしかしたらトラウマ級なのかもしれない。そうなのか?いいなあ。ぼくもそんなふうにみたかったよ。

あと、タクシードライバーとキングオブコメディとの関連を褒めているレビューを見かけるが、ぼくは逆に引いたと言っておく。なぜならあれはオリジナルへの敬意ではなくて、単なるファンの崇拝だからだ。オリジナルの表現を形を変えて使ってこそのオマージュだろと。あれじゃ同じじゃん。剽窃じゃん。しかもオリジナルより劣ってるし。盲目的に崇めた果てにデニーロまで引っ張り出して、見ていて恥ずかしくなったよ。影響を受けるのはいいけど、同じ文脈で(狂気を表すための演出として)そのまま使うってどうよ? そこ褒めたい?
(厳密にはトラヴィスのYou talkun' to meとは意図がまるで違うんだけどな。出番前のセリフの練習では普通なんだよ!)。

あ、くだらないことだけど、公開初日にもかかわらずエンドロールでスマホつける輩がわんさかいたよ。上映中に喋るやつさえも。そんな奴らが絶賛してるんだと思うとうんざりする。フォロワーさんが言ってたけど、「お前ら一番最初にジョーカーに撃ち殺される奴だからな」と。それを自覚できずに絶賛できる神経が謎。

アドバイスがあるとすれば、ハードルを下げて、勘ぐらず、流れに身をまかせること。
私からは以上です。