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ジョーカーのshingoのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.4
2010年代も終わろうという最後の最後にとんでもない爆弾が投下されたような、そんな印象を持った強烈な作品だった。

まずユーモアが無い。アーサーは終始笑い続けているがどれも悲しみを帯びた笑いで、映画として笑える要素は皆無。本作で描かれているのは全て2010年代を象徴する目を背けたくなるような混沌とした社会であり、広がる経済格差、貧困層で蓄積されていく憎悪、そして暴動。それらを徹底的にシリアスな視線で鑑賞者にこれでもかとつきつける。

狂人の大先輩「キングオブコメディ」のパプキンは妄想の世界に逃げることにより自分を保つ術を身に付けていたが、アーサーは妄想だろうと現実だろうと真っ向から受け止めることしか出来ない。それにより追い詰められ没落していくが、手を差し伸べても助けてくれる人は誰もいない。終盤のデニーロとのやり取りでの「オチは無い」という言葉が印象的で、ここでの「オチ」という言葉は「救い」や「希望」のメタファーとしか思えない。そして最後まで「オチ」を見つけることは出来ず、それら全てを喜劇だと笑い飛ばす。泣きながら笑う。もはやそうする事しか出来ないと言わんばかりに。

この作品が今年のベストだとは言えないが2010年代のベストを訊かれたらこの作品を挙げる。これ程2010年代を締めくくるに相応しい作品は無い。但し本当にユーモアの欠片も無いし精神的に追い詰められる作品なので鑑賞する際はご注意を。(アメリカで上映前に陸軍が待機しているという情報だけ唯一笑えた。戦争でも始める気か)
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