『沈黙の破壊者、我々を見捨てる管理者』
腐敗した都市で一夜限りの王として覚醒する男を描いたトッド・フィリップス監督作品は、暗炎にあって執念を刻む映像と不協にあって執着を奏でる音響のエネルギーに圧倒され、手に汗握る緊張感で夢のような時間の終焉まで見届けるアメリカンコミック映画の最高傑作。
ホアキン・フェニックスが全神経を研ぎ澄ませた狂気の芝居で生じた現象が炙り出すのは、善悪や貧富二元論の皮を被った妄想症患者に係るリスクのように感じられることについて、往々にしてリスクに晒されることのない安全地帯からの批判が予想されるというジョーク。
洗練された暴力の連鎖がエンタメの形式を取りながらも社会問題に深く切り込んでいって、予想どおりの平凡な結末も映画史の文脈においては途方もないカタルシスを演出するが、たった一年で善意の殺人者が最大の脅威となってしまった時代の変化を痛感せざるを得ない。