猫背

ジョーカーの猫背のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
3.8
社会派映画、ジョーカーっていうのはパッケージに過ぎない感じがした。
今こんな映画を作らないといけない状況にあって、賞取ってること自体が恐ろしい。ポピュリズムやばいねっていう現状をそのまま映してる。右でも左でも結局、自分さえ良ければいいという話で。貧しくて居場所もなく誰にも話を聞いてもらえない人間が、恨みを募らせていった末に暴力に行き着く。社会が弱者を笑い者にし続けた結末。

この題材を描く上で彼がひとりの凡人であることは不可欠だったけれど、結果的にジョーカーへと変身してしまうのは社会に対して誠実なやり方なのかな?と疑問に思った。アーサーに共感した自分達が現実に戻った後、せめて彼を身近な他者に置き換えて想像する、というのであれば現実への対抗になりうる。けれど自分のことで精一杯で他者意識に欠ける社会だからこそ、違った反応に行き着くかもしれないと思った。不幸な者同士が共鳴し、哀れみ合った先にジョーカーというアイコンが存在すると考えると恐ろしい。自己憐憫は何をもたらすのか。

オマージュ元のキャラクターが持つ狂人性・カリスマ性が欠如していることは何を意味するのだろうか。笑っちゃうのは病気のせいで、妄想癖の割には裏付けをしっかりする。「理解の及ばなさ」という意味での魔力がないことは、より共感を生むために名作を換骨奪胎したように受け取れる。それは狂気のきらめきを期待した観客をがっかりさせると同時に、それを待ち望んでいたという願望を浮き彫りにする。「よく分からない人がよく分からないことをする」スペクタクルは否定され、代わりに彼への共感と同調が引き起こされる。視点の変化によって悲劇が喜劇となりうること、理解しえない存在を肯定することは一種の救いでもあるのに、この映画ではその効能を否定する。クラウンが主役にもかかわらず。コメディ出身の監督がわざとこんな作品に仕上げたことに、現代への批判と皮肉が詰まっているように感じた。
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