こいけ

ジョーカーのこいけのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.2
ヴェネチィア国際映画祭の最高賞である金獅子賞を獲得した本作『ジョーカー』。この作品は、マーティン・スコセッシの『キング・オブ・コメディ』と『タクシードライバー』を随所でオマージュしたものです。そのためストーリーや構成にはあまり新鮮さを感じませんでした。

ドット・フィリップス監督自身がこの作品に加えた1番大きな演出は、現実と妄想を区別せず描いたことでしょう。”時計の針がずっと11時11分”や”6発しか装填できない銃なのに銃声が8回”といったディテールから、全て妄想なのではないか、などの憶測が立っています。しかしこの作品に置いて、どの場面が現実でどの場面が妄想なのなか、などという議論は全く無駄なように思います。

劇中のセリフには、「善悪は主観でしかない」や「喜劇は主観」など”主観”と言う言葉が多く登場します。つまり、この映画はただアーサーの主観を描いているのに過ぎないのではないでしょうか。人は誰しも現実と妄想の境に生きています。「That’s life.」(これが人生)なのです。

この作品は、アメコミ映画でもなければ、バットマンの宿敵としてのジョーカーを描いた映画でもありません。「格差」に潰されそうな1人の人間の人生の話なのです。

この作品の魅力は、なんと言っても映像作品としてとてつもなくクオリティーが高いことだと思います。映像と音楽のセンスが圧倒的過ぎるため、このような悲惨な物語を美しく感じてしまいます。そしてホアキン・フェニックスの怪演は言うまでもありません。もちろん物語自体もとても良かったですが、それ以上に技術が素晴らしい映画です。

万人に刺さる映画ではありませんが、映像作品として素晴らしいので、映像と音楽だけで最高の映画体験ができると思います。
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