このレビューはネタバレを含みます
狂っているのはこの僕か、この世間か?
最高と表現していいのかわからないけど、控えめに言って最高。私にはとても突き刺さった。
観る人によって解釈が異なり反応が渦巻いているのもこの作品らしさだと思う。
前半、アーサーの中で何かが壊れていく音が鮮明に聞こえてきてくるようだった。いや、最初からもう彼は壊れてしまっていたのかもしれない。
ピエロのメイクをしながら涙を流したときも、笑いたくないときに笑いがこみ上げてくるときも、虚ろな笑いを浮かべているときもずっと。
アーサーの悲痛を完全に理解することはできないが、どちらかと言えば彼と同じ側の人間だったので、終始息が詰まりそうだった。
自分のことを正常だと思い込んでいる人が普通を強いることほどおぞましいことはない。
アーサーからジョーカーに変化する過程を見せることで、観客と彼の距離を近づけ、悪役という存在を共感という形で惹きつけた。
はじめて拳銃を手にし、人に向けて引き金を引いたときの恐怖と快感。愛していた人にも裏切られ、遂には殺めてしまう。
失うものはなくなった彼は自ら底へ底へ堕ちていくー。
どのシーンも彼がすぐ目の前にいるようにリアルで背筋が凍った。
自分を虐げてきた存在に対して牙を剥いて狂喜を覚えていく様子は、まるで「あなたもこれを望んでいるでしょ?」と彼が微笑んでいるようだ。
自分が本当のノーバディだったことを知ったとき、彼はジョーカーとしてこの世界に生まれる。