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ジョーカーのryodanのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
5.0
J・フェニックス主演最新作。
文句なしの名作誕生。15年前だったら心がえぐられて最後まで鑑賞出来なかったでしょうね。これぞ闇、これぞトラウマです。心が揺さぶられるほどの圧倒的な熱量で演じたフェニックスの役者魂に感動しました。レジャーのジョーカーがステレオタイプに見えてくるほどでした。やはり個人的な感情の揺れ動きこそ、人の心に訴えてくるんですね。完全な悪にもなれず、ただ戸惑い絶望し堕ちていく。ちっぽけな人間の壮絶且つ滑稽な人生。一発逆転的な展開を夢物語にしてしまった背景にも、今の時代が反映されているのかな。ジョーカーと呼んで欲しいのに、クラウンにしかされず、騒動に乗じて、狡猾でクレバーな男がその後ジョーカーになるだろうという暗示的な編集は、ホントに哀れでしかなかった(あくまで個人的な憶測だから)。T・バートン版の「バットマン」のジョーカー誕生の台詞が、確か「You can call me a joker」。マニアだけにそんなことも思い出して、更に心をえぐられました(涙)。ビートたけしが言っていた「芸人は笑われているんじゃない、笑わしているんだ」と。ホントは全てをさらけ出して、誰かの胸で泣きじゃくりたかったんじゃないのかな?発作で笑っているアーサーの目に涙が溢れているのを見るとね。。鑑賞中に、この主人公が絶対にジョーカーにはなり得ないと確信しましたよ。前述の憶測はそういう訳。逆に、ずっと愛おしくてたまらなかった。ジョーカー誕生なんてどうでもいい、「ジョーカー」という型を取っ払って、ただアーサーをずっと見つめていたかった。本当に素晴らしい作品でした。型と言えば、「タクシー・ドライバー」を踏襲して、本家のデ・ニーロを起用してくるあたりニクイですね。息子が父親を越えようとする普遍的な側面もあった今作自体が、父親的存在の「タクシー・ドライバー」を越えるが如く、かつてトラヴィスを演じたデ・ニーロを殺すなんてね。制作陣の映画愛も感じてしまいました。ハリウッド資本の御都合主義的な展開にも関わらず、ヴェネチアが評価したのは、あくまで人間に焦点を当てていたこと。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」と何ら変わらない、人間が持つ純粋さと、純粋さゆえの悲劇。不寛容な世界が生んだ「笑える話」。って全然笑えないよ。。。
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