くわまんG

ジョーカーのくわまんGのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
2.0
「彼に傷つけられたので、仕返ししてやる。」という心理に、同情できない人はいないでしょう。しかし「彼に傷つけられたけど、許してやる(なぜなら私はそうすることができるから。そうすることで私の気分は晴れ、そんな私を見た彼の気分も晴れ、その後彼の私に対する態度が変化するかもしれないから…)。」なんて行動原理には、あと何行説明を付け加えても、同意が得られにくいでしょう。悪意は実にノーマルで、理解するのも行使するのもイージーです。

ところで、映画は同情のメディアです。本作を観た誰もがかわいそうなアーサーに同情し、その蛮行に情状酌量の余地を見出だしたでしょう。彼を傷つけたクズどもが惨殺されるクライマックスに、溜飲を下げたでしょう。なぜなら、彼は理解不能のサイコパスではなく、わりと普通の共感できる人だからです。アーサーの人生を生きていればジョーカーになりかねないと、多くの観客が感じるからです。

ですので、「かわいそうな俺も、俺を傷つけたやつを傷つけてもいいんじゃないか?」と思う観客が出現したり、元々そういう想いを秘めていた人を後押したりしても、不思議ではないんですよね。ジェイソンやブギーマンの無差別な暴力と違って、感情移入できるアーサー改めジョーカーの悪意はスクリーン外へ伝染し、観客を闇落ちさせかねないわけです。これは、メディアとしてはどうなんでしょうね。

僕が魅了された『ダークナイト』のジョーカーは、正義を謳う連中に対する「お前達は何が起こっても正義を貫けるか」という問いそのものでしたので、彼のルーツを辿った本作品の脚本には納得がいきました。ただ、メディアとしては世に益するところが少ない気がしました。願わくは、トーマス的な人達が悔い改めるきっかけにでもなればよいのですが。。