タイレンジャー

ジョーカーのタイレンジャーのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
3.5
ジョーカーになりたい人、手を挙げて〜。

そうか、世を憎む人間はこんなにも多いのか。

そんなジョーカー予備軍に朗報だぜ。

今日、ご紹介するのは、ごく普通の心優しい人間でも極悪非道な悪人になれる「ジョーカー変身セット」だ!

別名、「不幸の詰め合わせ」って言うんだけどな…。

「ジョーカー変身セット」の成分表示:
貧困
精神疾患
失業
性的不自由
心許ない福祉
報われない介護
才能の欠如
虐待
いじめ
格差社会
友なし
コネなし
信頼していた人の裏切り

これらの要素が揃えば、誰だってジョーカーに変身できてしまうんだよ。

もちろん、全部を体験するのは死ぬほどキツイけどな。

でもな、ジョーカーに変身することで初めて君は世に復讐をすることができるんだぜ。


…と言われているような気がした本作。

言い換えれば、ジョーカーという料理をつくるレシピのような映画なんですよね。

言うまでもなく、本作は心優しい凡人アーサーが極悪人ジョーカーになるまでを描いており、いかにその過程に説得力を持たせられるかがポイントになっています。

なので、アーサーの心が徐々に壊れていく社会的な要因を実に親切丁寧に描いています。

あぁ、こんなに酷い目にあってきたのね、可哀想に、と観客に感情移入させるのも作り手の狙いです。まさかジョーカーに感情移入してしまうなんて…と相反する感情を抱かせることも含めて。

その狙いを達成する為に、作劇上とても用意周到な「不幸の詰め合わせ」が展開されます。

ただ、個人的な感想としては
「なぜなら彼はこれだけ虐げられてきたからさ」と、ジョーカー誕生が理屈で説明される感じに若干、白けてしまった、というのは否めないです。

というのも、どうしても避けられない比較論になっちゃいますが、『ダークナイト』のジョーカーには背景も出自もありません。

最初からジョーカーとして登場し、断片的に過去の情報が出てきますが、どれが本当なのか、または全てが虚言なのかもしれないという得体の知れなさが不気味でした。

背景も目的も分からない悪人というのが一番怖いですよ。

それと比べてしまうと、本作のように「ジョーカーだってもとともとは優しい子でね…」と言われるのはキャラクターの底が見えてしまう気がしてならないのです。

これと似たパターンなのが『羊たちの沈黙』に対する『ハンニバル・ライジング』ですかね。レクター博士がなぜ人を食うようになったかは描かなくても良かったんじゃないかな?怖いキャラはミステリアスな余白を残しておくほうが僕は好みです。

このように、本作はジョーカーというキャラクターに対して『ダークナイト』とは真逆のアプローチをしてるので、そこで評価が分かれるのは仕方がないかなぁとは思います。

映像、音楽、演技いずれもレベルが高くて、とても見応えのある内容だったんですけどね。
一応オススメなんですけどね…。