ギズモバイル

ジョーカーのギズモバイルのネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
2.4

このレビューはネタバレを含みます

≪ざっくり評価≫
スコセッシを目指してアメコミを踏み台にした擬似ニューシネマ映画。
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総合評価 (/7) ☆ 2.4
シナリオ 2
総合演出 3
独創性 3
完成度 2
心理効果 3
相性(*2) 2
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【ネタバレ】
「ウケないギャグでコメディアンを目指す、シングルマザーと同居中の主人公。発作で爆笑してしまう持病を抱えながら、不条理な格差社会を健気に生き抜くが、同僚にもらった拳銃でついサラリーマン3人ぐらい殺しちゃったりする。母親情報でバットマンのパパが自分の実父だと確信して会いに行くがもらったのは愛情ではなく鉄拳。色々調べたら母の狂言ぽかったので母殺害。同時進行で、過去に盛大に滑ったソロ漫才が大物コメディアンの目に止まり、番組出演を依頼されていたので刑事の追跡を振り切り拳銃片手に出演して、相変わらず盛大に滑りながら必死にフォローしてくれた大物コメディアンを逆ギレしてヘッドショット。巷では格差社会で鬱憤のたまった貧困層が『乗るしかないこのビッグウェーブに』みたいなノリでピエロのコスプレして暴れ回って世紀末状態に。バットマンパパは巻き添えで射殺され、ジョーカーはピエロ達に神のように崇められる。」

そんなシチュエーションのアメコミはありますか?

とオレが聞くと、黒人カウンセラーはにこやかにオレの肩に手を乗せ

「帰れよ」

と言った。


≪突っ込んだ感想≫
一般的にアメリカン・ニューシネマのジャンルと扱われているフシがあるが、個人的には違うと思う。もっとも、ニューシネマの定義なんて存在しないらしいのでそもそも無意味な見解かもしれないが、いわゆるニューシネマの代表作は、「秩序に無秩序が衝突して主人公が悲惨な結末を迎える」といった要素が何かしら入っており、特に代表作とされるイージーライダーなんかは顕著だと思う。無秩序は人間本来が持つ自由への渇望とか個性の尊重なんかも含まれているので、秩序を重んじる人でも共感できるのだ。それ以前の反社会的な映画は、存在したとしても結局何らかの社会的な意図が含まれていたりして、型に嵌っていてつまらなかったが、ニューシネマ作品はその点リアリティ重視で当時は斬新だっただろうし、今観ても面白い!

で、トッド監督がオマージュしているのは完全にスコセッシ映画であるのだけど、スコセッシ映画がニューシネマか?と言われると、少なくともタクドラとキンコメに関しては違うと思う。どちらも主人公が社会に虐げられてはいるが、要因が社会側より主人公の精神状態にフォーカスされているので、どちらかと言えばサイコスリラーであって、ニューシネマのような諸行無常感は無いし、そもそも主人公が悲惨な結末を辿らないのも決定的だ。ジョーカーも最後、なんか目覚めてたし。

で、この作品でトッド監督が目指したのは言うまでもなくスコセッシ映画であるので、ニューシネマには成り得ない。ニューシネマ映画として観たら違和感しかない。強引に行政や社会構造の問題を持ち上げてはいるし、主人公も色々問題を抱えているとはいえ、思考回路はマトモに見える。一応、そのへんの基本要素は満たしてはいるものの、なんていうか下手くそだ…。ニューシネマがウケたのは従来の映画にはないリアリティが含まれているからであって、リアリティを表現するには心理描写一つにも絶妙な手腕が要求される。やりすぎても台無しだし、弱すぎても退屈だ。

しかし今作のジョーカーに関しては、かなりレアで派手な障害持ちだったり、血縁関係にバットマンパパ持ち出したりと、設定が大味すぎて主人公の絶妙な心理描写とかどうでも良くなる。社会や格差に問題を提起しつつも、なんかそれを表現するのに必死過ぎる。巧い監督ならば、そういうのは言葉にしなくても伝わるものだ。

そして極めつけは、アメコミ設定。そもそもゴッサムが舞台になってる時点でニューシネマのようなリアリティからかけ離れてしまう。ニューシネマをファンタジーで表現するなんて、カニを表現するのにカニカマ使うようなものだ。本物の天才監督なら、カニ以上のカニカマを作れるのかもしれないが、普通は素直にカニを食べる。

かといって、アメコミとしての魅力は出ているか?と言われれば、それは「NO!」と断言できる。これはほぼ全人類同意だと思うし、もし「Yes!」と答える人がいるなら、その人のアメコミと私のアメコミは何か全く違うものを指しているのだろう。

要するに、結論としてはこの映画はジャンル不特定の中途半端な映画だ。心理描写はスコセッシの足元にも及ばず、ジョーカーもシリーズ既存の中でも超絶劣化版だし、そして残念なことにニューシネマですらない。

…しかし!それでもこの映画は存在価値があるし、監督に評価するべき点はある。まず、映画としては、ニューシネマ&サイコスリラー&アメコミという混じり合わない3つのジャンルを混ぜようとした無謀な意欲作として評価できるし、存在価値がある。そして、監督が目指したスコセッシ作品。それらは紛れも無く名作であるので、監督の目の付け所はまさしく本物だと思う。正直、映画監督より評論家のほうが適性があるんじゃないかとすら思う。

≪蛇足≫
ヒットしたのも、昨今のアメコミ業界の活躍による恩恵が強いだろう。製作のタイミングとしてもまさに最適。時勢を読む能力も優れた監督だと思う。好きにはなれないが。