カラン

ジョーカーのカランのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
3.5


☆ドルビーシネマで、アーサー = ブルース・ウェインの構図を観賞するのは、ジョーカー=ノーラン&ヒースへの愛に適うのか?


ノーランのダークナイトシリーズ以外で、ジョーカーのことは知らない。ヒース・レジャーが途中で亡くなってしまって、私の中のジョーカーはあの映画で止まってた。で、そのジョーカーをホアキンがやり、なんだかDolby Cinemaとかいう、音響面ではドルビーアトモスを強化して、映像面では解像度を高めたとかなんとかいうシアターでやるというので、ジョーカーを最高の環境で体感したいと思い、劇場に行ってみた。

☆ドルビーシネマ

まず、天井をスピーカーが埋め尽くしている。スピーカーユニットはかなり大きく、5〜60cmくらいはあるように見えたが、それがシアターの天井の中央を2列走っている。その外側には、球体のスピーカーが配列されている。カッコいい!ドルビーアトモスというのは、各チャンネルに収録された音源を割り当てるのではなく、オブジェクトオーディオっていう考え方で、音の位置情報まで再現するってやつなんだよね。まぁ、あんまり詳しくないんだけど。映画館向けのアイデアだよね。で、ビジュアル面でも色々ブラッシュアップしたみたい。

で、ぜんぜんダメでしょうね。movixさいたまってとこのなんだけど、スピーカー間の距離が近すぎるんじゃないかな。そのせいで音が干渉しあってるように聞こえるし、おまけにそんだけスピーカーを埋め込むと天井の強度も低下するのかもね。私は自宅では1台50キロを超えるスピーカーにスパイクはかせて、鉄球をサンドイッチした1枚25キロのオーディオボードに載せてるけど、床のビビりは解消できないもんねえ。あの天井についてたやつは、うちのユニットの軽く2倍はあったと思うくらいでかくて、そんなのがあんなにたくさんだからね。雑味の多い低級な音をかなりの爆音で再生してて、げっそりしたわ。というわけで、次にドルビーシネマは丸の内のやつを試してダメだったら、ダメということでしょう。IMAXへの対抗としての商品なんでしょうが、完成度がまるで違うかも。

☆ジョーカー

で、映画の中身ですが、痛ましい生い立ちに終始してるのはジョーカーを情状酌量しろってこと?情状酌量しちゃだめじゃない?なんといってもジョーカーなんだからさ。それじゃあ面白くないでしょう。

テレビ番組を見て、幻想に入っていくのは、『レクイエムフォードリーム』のジャレット・レトのかわいそうなお母さんを思い出したが、この映画のジョーカーはこのレベルの狂気なんじゃない?デニーロは最初はよかったけど、射殺される頃にはダメだったな。『インランドエンパイア 』でちょい役の司会者を演じたローラ・ダーンの母ちゃんの異常さには及ばず。

下のほうにオーデンという詩人の「1939年9月1日」という詩を訳しておいた。この日付けはおそらくナチがポーランド侵攻をした日のこと。虐げられた者たちが恐るべき復讐者に変貌するという内容の詩である。ヒトラーは「いじめられっ子」だったので仕返しに大量殺戮者になりました。じゃあ、ジョーカーも同じ扱いをすればOKですかね?いやいや、ノーラン&ヒースにおいては純粋状態に近い形で存在していたジョーカーの悪の力を目減りさせてしまうでしょうな。

なんとなれば、悪が圧倒的である時とは、理由も大義も一切追いつかないほどに暴力的である時でしょう?叙情酌量の余地がある悪などというのは、悪ではない。もちろんヒトラーの誕生秘話は重要でしょう?ヒトラーの絶対性を相対化し、その神格を解除するためにね。他方で、ジョーカーについて私は、ヒース・レジャーが亡くなった今、もう一度彼に会いたかったし、ホアキンという稀代の性格俳優を得て、さらに強烈になっていて欲しかったのだった・・・、しかし残念、この映画の全ストーリーが根本的にジョーカーフリーク向きでない。

まあ、当たり前か。ブルース・ウェイン→バットマンをアーサー→ジョーカーに移し変えただけだもんなぁ。アーサーがかわいそうなら、ブルースも同じだけどさ、同じでいいわけ?で、オタク君たちの好きなスピンオフのネタらしく新味もないし、バットマンとジョーカーは同じ父を持つ、ある意味で、双生児なのだ!なんていう1枚のコインの表と裏を指摘し、大いなる価値を二重化する展開が、高く振りかざされた絶対の相対化に役立つのだとすれば、純粋な悪の享受に向くわけがまったくないのは、自明である。

繰り返すが、私はドルビーシネマを導入した映画館で、純粋なパワーを体感し、圧倒的な悪を楽しみに映画館に向かっただけだ。そういう意味でこの映画を楽しみたい人は『ダークナイト』を観ないほうが良いと思いますよ。逆に『ダークナイト』の今は亡きヒースのヒールを多いに愉しんだ御仁は、ご用心くださいね。





September 1, 1939

Accurate scholarship can
Unearth the whole offence
From Luther until now
That has driven a culture mad,
Find what occurred at Linz,
What huge imago made
A psychopathic god:
I and the public know
What all schoolchildren learn,
Those to whom evil is done
Do evil in return.

- W. H. Auden


「1939年9月1日」

正確に学問すれば
罪の全貌が明らかになる
ルターから今に至る罪が
文化を狂わせてきた罪が
リンツで何が起こり
巨大な妄想が精神病の神を
生み出しことが分かる
私も世間も知っている
学校で子供が何を学ぶのか
悪を為されし者が
仕返しに悪を為す
カラン

カラン