のほほんさん

ジョーカーののほほんさんのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
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よくこんな暗い作品をハリウッドが作ったなと感心する。
デニーロが演じた司会者のように、彼の事を「自分の人生を憐れんで」と断罪する事は容易い。しかし司会者やトーマス・ウェインの様な上流階級が持つ特権意識に基づいた言動よりも、彼らに踏みつけにされてピエロマスクを被る人々の方へ余程共感できる。
番組のモットーらしい、「上品さ」は自分達にとって都合の良いキレイごとをつまみ上げただけにすぎない。そして、失笑すらも得られなかったアーサーを、そしてその背後にある彼らが置かれている立場を笑い物にしているのだ。そっちの方が醜悪だ。

チャップリン映画が流されているシーンがあった。それを観て上流階級は大笑いする訳だが。
チャップリンの作品は、いくつかを観たことがあるだけだが、民衆の側に立った作品だと思う。多くの笑いは彼自身がなんか痛い目にあったりしていた。もし他の人が笑われる対象になる場合なら、それはチャップリンの様な人たちを抑圧する立場の人間に一泡吹かすような時だった。少なくとも、自分より酷い境遇にある人を笑い物にする事はない。

他人の人生であれば、その悲劇を笑うことは出来てしまうのかもしれない。
しかし、自分の人生を悲劇ではなく喜劇だ、と言うようになってしまう。こんな残酷な事があるだろうか。

テレビ出演に向かうアーサーが階段で踊るシーンで、フルモンティの曲が流れて、おおっ!となった。あの辺は、いわばアーサーがジョーカーになった時であり、この映画のハイライトになる名場面だった