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ジョーカーのギルドのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.6
【アメリカン・ニューシネマの新時代と不気味さの合わせ技】
コメディアンを目指すアーサーが理不尽な出来事を通じてジョーカーへ変貌するアメコミ映画。

結構前に鑑賞して上手く整理がつかなかったので、見返してやっと整理がつきました。

アメコミ映画で見るよりはドラマ映画を見ているような気分になりました。今年は負け犬のワンスアゲイン、弱者に寄り添う良質なドラマ映画が多いと感じてましたが、本作もその一つでした。
ただジョーカーが良かったのは所謂アメリカン・ニューシネマを現代にチューニングしつつもアメコミの願望・世界情勢の反映・殉教者扱いしたがる願望への回答が見事なところだと思います。

色々な人が指摘する通り、母親思いの優しい男が理不尽な出来事で徐々に狂気に満ちるのはタクシードライバーのトラビスを彷彿させるし今回のストーリーラインもキング・オブ・コメディを感じます。
単に絵柄を猿真似するだけでなくタクシードライバーで有名な指で拳銃を作るジェスチャーも事前準備の仕草も、キング・オブ・コメディの登場人物の容姿・服装から神格化たらしめる巨大な人物絵と細かいディテールまで敬愛とアレンジを感じて伝えるテーマと見事にマッチしてて良かったです。
現代的なアメリカン・ニューシネマをアメコミとして見せる辺りは知る人ぞ知る東京国際映画祭で上映されたラ・ヨローナ伝説を彷彿させます。そして世界中で取り上げられている香港・グアマテラ・アルジェリアのデマと様々な社会的批評の見方が取れるところも取れて、単にアメコミを見てる感覚にならない作品だと思います。


でも本作が素敵なところはそういった社会的批評も取れる部分に人々の願望と不幸な現実に逆ギレするアーサーの乖離を見せるところだと思います。世界への不満はあれども大きな行動を起こせず救世主を求める我々に対して、救世主が現れたかと思える妄想を様々な切り口で見せてコメディで落とし込む「見えなさ」が凄く良かった。反体制と思われた源が真実と虚構でグチャグチャになった悲しさと恐怖を内包し、それで世界が変わる・どんでん返しになる脆さがテーマとマッチしていて素晴らしかったです。

社会情勢の実情にも見えるしアメコミの自己批評にも取れるし一人の人間の精神世界にも取れるけど、まるでそれを追い求める人を嘲笑うかのような着地が見事でした。
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