shinya

ジョーカーのshinyaのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.0
冒頭、笑顔の練習をしながら黒い涙を流してるショット一発でアーサーの心情を表現するという華麗さが見事な幕開け。
しかし、蓋を開ければ最後に残ったのは混沌とした戸惑いであった。

ジョーカーと言えば、古くは「笑う男」から始まり、紆余曲折経て遂にオリジナルの誕生譚を描き、恐怖の表現もここまで来てしまったのかという感じである。

レザーフェイスなどの殺人鬼は即物的な恐怖があるが、「第三の男」のハリー・ライムやこれまでのジョーカーのように思想や人格を悪に染める恐怖もある。
それが如実に現れたのがダークナイトのジョーカーだったが、本作ではアーサーという人物に感情移入することによって、誰しも自身の中にジョーカー的要素を持っているという恐怖が露呈した。

そこに大きな戸惑いが生じるわけだが、こんだけ社会が不条理であれば「タクシードライバー」のトラビスの然り、アーサー然り、人は追い詰められばキレるのだ。
あんだけ絶望に虐げられたらキレたっていいだろう。その結果、ジョーカーが誕生したのならば、仕方ないのではないか?どうなのか?

ただ、本作には勧善懲悪の二元論でもなく、カタルシスのあるクライマックスでもない、どんよりとした淀みが残る。
この鑑賞後の混濁した気持ちこそが、本作の置き土産だったのか、と戸惑うのだ。

最後まで観ているとどこまでが現実で、どこまで妄想(ジョーク)なのか曖昧さを残しているが、この曖昧さも含め、なんて意地悪なジョークを言うのだろうと思う。

そして、本作のような映画で虐げられた男の狂気の発露にカタルシスがあるのは余りに暴力的で現代的価値観ではないと糾弾されるだろうし、製作者側も意図してアンチカタルシスで作っているが、映画なんだから、もっとカタルシスがあってもいいだろ!と思う僕は愚の骨頂なのでしょう。
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