黒川

ジョーカーの黒川のネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

やっと観た。前売り買ってたのに今になったよ。そんでもってすげー鬱映画だった。冒頭からしんどすぎる。

概ね面白いと言うか、ホアキンの怪演が素晴らしく、また画面造りがとてもうまい。キャラクターの造形も魅力的だ。アーサーの唇には口唇烈の跡があり、彼の行動には多動傾向が見られる。教育も満足に受けていないのだろう、コメディアンのライブで皆が笑うところで笑うことができない。なんかその辺の作り込みに力が入ってるのに妙に薄っぺらく感じたのは、ボロいアパートに住み(つっても広い)ソーシャルワーカーの世話になり仕事クビになったりしてる割にめっちゃいい服着てるのが画面越しにわかるからだろう。あんなオートクチュール並みのフィット感といい全然化繊じゃない生地でできてる仕立ての良いシャツといいなんなんだ。ピエロ衣装だけ力が入ってるとかじゃなくて全体的にめっちゃいい服。セーターには毛玉ないしボロっぽく見えるコートもズボンも薄汚れてるだけでめっちゃいい生地やんけ。確かにこのジョーカーというキャラクターはカリスマ性と扇動性を持つべきなのだが、これってどうよ。しかも地下鉄のインシデントがあまり強調されていない割に一大ムーブメントになっているのもなんだか解せない。
そんで物語の既視感がすごい。なんというかタクシードライバー(邪険に扱われていたベトナム帰還兵の主人公が一躍ヒーローとなるプロットはまんまだし、指鉄砲バーンもだし髪型イメチェンもだし、ていうかトラビス司会者役で出てるやんけ)とマシニストとアメリカンサイコ(妄想癖を拗らせ現実と幻覚が同一化している点。あと主演がバットマンやったね)とレクイエムフォードリーム(社会の底辺層が薬売って破滅するしダイエットして人気番組に出たいママを薬漬けにしちゃう。あと主演がジョーカーやったね)と、パンチラインはハイテンション(実写版コブラ作んなくていいよ)っていう感じ。あとアーサーが襲われてるところは時計じかけのオレンジっぽい。地下鉄シークエンスはかなりジェイコブスラダー。以前漫画家の施川ユウキ先生がマシニストの映画レビューを書いてて、なんでガリガリのエガちゃん系の人ってあの走り方と奇行に出るの?って言ってたけど、アーサーもそんな感じでした。そして車に轢かれてもピンピンして警察から走って逃げるよ。そこも同じ。そして妄想癖。4、50年前は下層民が上層部に搾取され殺される話が多かったけど(e.g.ソイレントグリーン)、ここ20年くらいは下層の反乱が流行っている感じでしょうか。パージとか。そう考えるとバラードのハイライズは先見の明がすごい。そしてどこまでが妄想でどこからが現実なのかという部分がとても曖昧で、何を観たんだという印象。結局どこまでが本当なの?

本作は話題作であり支持が厚かったが、一部の人が普通と言っていた。それはこの作品がバットマンの悪役ジョーカー誕生の話ではなく、現在進行形で膨らんでいる人々の不満を可視化した映画だからなのだろう。ゴッサムではゴミ収集業者のストライキで衛生環境が崩壊しつつあった。底辺層への社会保障は打ち切られ、政治家は自分のキャンペーンに忙しく、当選後は民意などに関心はない。そんな中主人公アーサーが一身に不幸を受け、ハッピーと自分を呼ぶ母と一緒にソーシャルワーカーのカウンセリングを受けながら生きている構図に、人々は自分の姿や向けどころのない社会への怒りを重ねる。アーサーは道化としてサンドイッチマンや小児病棟の慰問の仕事をしながら、未だに子供の頃のコメディアンの夢を捨てきれずにいる。社会的弱者のこの親子にすべての人が無慈悲だ。で、あの展開からのあのオチ。どうした。個人的にはなかなかの超展開。どうしてこうなった。

なんでか知らんがこれ絶対フランク・シナトラで終わるって思ったら本当に終わった。なんかなんとなく読めてしまう部分がたくさんあった気がする。だから僕は既視感と手垢のついたテーマにばかり反応してしまうのかもしれない。

あ、妙に仕立ての良い服って、もしかして全部妄想っていうところへの布石だったのか⁈結局妄想なのかなんなのかわかんねえけど。
黒川

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