純

ジョーカーの純のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.6
物語も、ジョーカーの笑顔が本物なのかどうかも、時間が進むほどどんどんわからなくなって、ゾッとした。理解を超えている恐ろしさに震えながら、理解できない自分にほっとして……。

凶暴性の奥には、底知れない淋しさが暗い鉛色になって沈んでいた。自分の意志ではどうにもできない負の魔力。悪魔が、わたしたちを喰い尽くそうとしているのを感じながら、足掻けば足掻くほど、その罠にどんどん嵌ってしまう。ジョーカーにならずにすんでいるのは、優しさを教えてくれるひとたちがいたからだ。苦しいときに駆け込める居場所が守られているからだ。崩れ落ちないでいられるのは、わたしの強さではないのだろうという脆さがある。それが怖くないわけではないけど、わたしはきっと明日もなんとかやっていけるだろう。そう思えなかったのが、ジョーカーなんだ。

冷蔵庫に閉じこもって、何に怯えていたんだろう。怯えている彼に可哀想だと涙を流すべきなのか、怯えながらも狂気を帯びていく彼にもっと怯えないといけなかったのか…。わたしたちはみんな救われたいだけで、きっと自分の力で乗り越えたいことがたくさんあるのに、意地悪な運命や偶然に何度も躓かされてしまって、それでも立ち上がりたいのに、それだけなのに、なんて哀しいんだろう。

彼は笑ってなんかいなくて、本当は泣いていた。でも、少しでもピエロになりたかったから、笑うしかなかった。けれど、なりたかったピエロの明るさを諦めて、ジョーカーとしてリズムに乗ったとき、ああ、なんだか世界が完成してしまっていた。その紛れもない瞬間を、わたしたちは、確かに見てしまった。
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