柚子

ジョーカーの柚子のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.0
この映画を観て真っ先に思い出したのが「無敵の人」という言葉。
失う物が何もなく、犯罪行為をも厭わない人を指すネットスラング。
社会的繋がりの希薄、家庭環境や挫折などに起因する価値観の崩壊と劣等感の誇大妄想により、自暴自棄な感情を持ち極端な成功者への妬みや社会への復讐といった思考に陥っていく。

一つ、また一つとアーサーの居場所や心の拠り所が失われる度に狂気に飲み込まれるまでのカウントダウンが進んでいるようだった。
人生の成功者から嘲笑される社会の道化師の笑顔の下は激しい怒りを伴った狂気が隠れているのだと思った。
こう言うとアーサーの犯行を正当化しているように映るけれど、彼を無敵の人たらしめたのは間違いなく社会であり、世相を反映しているように感じた。

この無敵の人の恐ろしい点は、しばし民衆から英雄視されること。
無自覚のうちに抱いていた社会や成功者、すなわち敵への不満が堰を切ったように溢れ出す。
誰もがジョーカーになる可能性を秘めていて、明日親しい人がジョーカーになって敵意を向けてくることも、あるいはジョーカーになるのは自分かもしれない。
などと考えていたけど、ラストのシーンでは結局今までのことは全て現実だったのか夢なのか妄想なのかと困惑してしまい、最後までジョーカーに翻弄されたような気分だった。
柚子

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