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ジョーカーのBeSiのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
5.0
「THE BATMAN-ザ・バットマン」を観たということでこちらも再鑑賞・再投稿。これまでの「バットマン」シリーズの映画・ドラマいずれとも世界観を共有しない単発映画として、悪のカリスマ"ジョーカー"の誕生秘話を綴る。


主演を務めたホアキンはこう語っています。

何が正しくて何が正しくないかを教えるのは映画制作者の責任じゃない。これは明らかなことだよ。ジョーカーほど情緒が不安定な人は、(本作に限らず)何でも起爆剤になり得ると思うね。その人にとって何が起爆剤になるかなんて誰にも分からない。今僕が受けている質問をすることで爆発する人もいるかもしれない。だからと言って "この質問は相手に悪影響をもたらすかもしれないからやめておこう" とはならないよ。僕はそれを他人には求めないしね。


極端な話、暴力的な映画は犯罪を助長するって言うなら感動的な映画は平和を助長するのかということですよね。結果的に悪いのは "映画の影響を受けている人間" です。作品自体に罪などは一切無いんです。映画といった文化は一種の娯楽として大衆に見せるものに過ぎず、悪く言えば影響を受ける人は勝手に受けとけという事になります。それがどんなに悪い方向に向かおうと、映画を作った側からすれば "そんなのは知ったことじゃない"、 "映画に悪いように感化されたのは自分のせいだろ" ってなるだけなんですよね。まだまだ人々の記憶に新しい "京王線殺傷事件" の主犯格の男は、本作の影響を受け犯行に及びました。このことが原因となり、SNS上ではジョーカーを題材にした映画への批判が殺到。これって、まあまあな言い掛かりじゃないでしょうか。何でも揚げ足を取れば良いってものじゃないし、それによる状況の悪化は避けたいよねと思うわけで🥲長々と意見記述すみません💦以下レビューです!🙏


"悪"として存在する自分、凶暴化していく自分を制御出来ずに堕ちていくアーサーの描写はこの映画の一番の魅力と言えます。現実と虚構の区別がつかなくなる。その様子からは色々な解釈が出来ると思います。登場人物同士を比較した時の年齢差や時系列から見て、アーサーは"ジョーカー"の先駆けとなった人物なのではないか。アーサーにとってジョーカーという存在は彼を奈落の底に突き落とすような不幸なものではありません。むしろ彼の本性を解放し、拡大させるものなのです。"アーサー"として在る時には階段を上る。"ジョーカー"として在る時には階段を下る。"ジョーカー"こそが彼の求める本当の幸せ。この腐りかけた街で生きていくには、果てしない絶望から抜け出すには、ジョーカーしかいない。その瞬間は自分が神と同等の存在としていられる時間なのかもしれない。歪みを帯びた自由資本主義が引き起こす犯罪、貧困、格差問題、人間の荒廃と崩壊に蝕まれてゆくNYの皮肉な未来を嫌というほどに象徴したゴッサム・シティ。地獄と化した場所で誕生する悪。全ての人間に備わったものであり、それは生命の誕生とともに生み出される。あまりに惨い階層社会が、ジョーカーのような、溢れ出る自身の本能に陶酔し暴走する悪を生み出す。悪の堕落から昇華までの過程を、1人の哀れな人間を通して痛烈な風刺を効かせて描き出している点には観ていて凄く感心させられます。

"狂ってるのは僕か、それとも外の世界か"
"心の病を持つ者にとって最悪なのは、普通のようにしていろと期待する人々の目だ"

僕が「ジョーカー」で聞いたアーサーの言葉の中で特に胸を締め付けられた言葉です。私たち一般人からすればアーサーのような人間を見ても "普通じゃない" とか "変人" と思うだけ。これはある意味、狂っていると言えるでしょう。ただでさえ見えづらい他人の本質を無意識のうちに隠し、建前とも受け取れる秩序が形成されている。こんなにも理解が難しい状況って、私たちは今までに何度も経験してきているのかもしれません。まさに強烈。そんな悲惨な現実に向き合って生きていくアーサーの姿は、市民全体の感情を表しています。悲しく、美しく、面白く、惨く、変化を遂げていくホアキン・フェニックスの最高の演技に脱帽すること間違いなし。

"ジョークを...思いついて"
"聞かせて"
"理解できないさ"

最後に強烈なインパクトを放ったこの一幕が今作の全てを物語っていると言っても過言ではありません。壮絶な人生を経て狂い、堕ちた人間の考えることなど理解できるはずもない。それは彼にしか分からないジョークなのだから。何回も鑑賞を重ねるうちに見方が大きく変わりました。"アカデミー賞は確実だ" この言葉がこんなにも似合う映画が今までにあったでしょうか。



何千万もの下馬評を押しのけ、堂々たる登場で世界に衝撃を与えた劇薬。DC映画史......いや映画史に今後何十年何百年と名を刻むであろう最高の傑作。これが、私たちが映画を観るべき本当の理由です。
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