エジャ丼

ジョーカーのエジャ丼のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.3
「本当の悪は笑顔の中にある」

1981年、荒んだゴッサムシティに生きるアーサー・フレックは、母親ペニーの「どんな時も笑顔で」という言葉を胸に、大道芸の仕事をしながら一流のコメディアンになることを夢見てきたが、あることをきっかけに彼の笑顔は狂気へと変貌する。

IMAXのどでかい画面に映る「JOKER」の文字が観れただけで良かった、と思えた映画。海外での前評判の通り、人の人生を悪い意味で狂わせる可能性も感じられる非常に刺激的な作品。「タクシー・ドライバー」「キング・オブ・コメディ」の影響を大きく受けており、それらに酷似したシーンがいくつか含まれている。「Smile」「That’s Life」などの話の本筋のニュアンスとはかけ離れた音楽がこの物語の不気味さや、廃れた、イカれてる感を演出しているのもまた良し。アカデミー賞受賞も納得のホアキン・フェニックスの演技は素晴らしかった。

この映画を観て「悪」の定義があやふやになってしまったもしくは揺らいでしまった人は少なくないだろう。貧しい家庭に生まれ、孤独で、叶わない夢を持つ人間が、本当の、本当のどん底に叩き落とされた時、そこから起こるアクションは、その内容がどうであれ、悪と言ってしまっていいのだろうか。もしそれが悪なのだとしたら、それを生み出してしまった環境や取り巻きこそが悪なのではないか?

『僕の人生は悲劇ではなく喜劇だったのだ』

全てに裏切られ、絶望した男の笑いには喜怒哀楽の哀しか感じられない。失うものがない人間ほど怖いものはない。だから我々は、これだけは、これだけは絶対、譲れない、と自分が思っているものがあるのなら、それを一番に大事にしなければ。それが人生を豊かにする。その豊かさが幸せをもたらす。全ての人間がそれを持つことができる社会を作らなければ。アーサーの笑いは、持つべくして持つことになった我々に対するSOSなのかもしれない。