パンナコッタ

にっぽん昆虫記のパンナコッタのレビュー・感想・評価

にっぽん昆虫記(1963年製作の映画)
3.7
世界にも名を轟かす今村監督の作品、はじめて鑑賞したけど、こりゃディープだ。
東北の農村に生まれた「とめ」が上京して、新興宗教へのめり込み、売春婦の女将としての栄華と転落の日々を描いた、家族三代における松本家の物語。

なるほど、概略を説明するだけで、不思議と暗くなるような感じでまぁ、実際暗かったりするのだけど後味は意外に悪くない。
すっとぼけたような彼女をみてると笑えてくるからだ。それはニヒルな笑いとか知的に富んだ皮肉なんかじゃなく、たとえば、とてもつまらない親戚のおじさんの長話を聴いて子供達がまたかと笑っちゃうような、そんな空滑り的な笑い。そんな彼女を昆虫にたとえて、観客は第三者的に距離を空けてみることができる。

だからか、戦前から戦後へ成長を辿る日本社会に翻弄「される」女性たちっていう表現は間違っちゃいないんだけど、彼女にとって社会は現前していない。もちろん、父親不在から生まれる彼女の「とうちゃん」への執着をフロイト的な文脈で捉えるのも彼女には関係ない。