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長いお別れのbutasuのレビュー・感想・評価

長いお別れ(2019年製作の映画)
4.0
認知症が進行していく父と周りの家族を描いた物語。とてもとても良かった。中野量太監督のバランス感は本当に素晴らしい。この手のいわゆる"お涙頂戴テーマ"を絶妙な塩梅でじわじわと描いてみせる。決してわざとらしく大仰ではなく、泣かせる作りでもなく、説教臭くもなく、ただただシンプルにしんみりと心に染み渡る、そんな映画。

この手の映画でありがちなのは、"記憶を失うこと"や"死"を使ってラストに泣かせに走ること。しかし本作はそのどちらも全然使わない。それなのに、それこそラストだけでなく全編に渡ってグッと泣きたくなるようなシーンがいくつもあった。"家族"というものの繋がりや温かみ、もっと複雑な様々な感情がシーンごとに繊細に描かれており、本当になんてことないシーンで何回も泣きそうになってしまった。大きな出来事がそれほど起こるわけでもないし、何かが起こってもさりげなく見せるだけで全然わざとらしくピックアップしてみせることはない。カメラが映し出すのはただひたすら一つの"家族"。むしろ必要最小限の描写にすることによって物語や登場人物に広がりを持たせており、本当に素晴らしい脚本と演出力だと思う。

勿論キャスト陣も素晴らしい。やはり圧巻なのは蒼井優と山崎努。彼らの存在感がこの物語をぐっとリアルなものにし、キャラクターに息を吹き込んでいる。

やっぱり自分は中野量太監督が描く"人間賛歌"が大好きだ。また観返したい、大切にしたい映画だった。
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