MasaichiYaguchi

長いお別れのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

長いお別れ(2019年製作の映画)
3.8
中島京子さんの同名小説を中野量太監督が映画化した本作は、2025年には日本における高齢者の5人に1人がなると言われる「認知症」を題材に、それを患う父親とその家族との7年間の物語を描く。
高齢になると物忘れが酷くなるが、「加齢」によるものと「認知症」によるものは趣が異なる。
「加齢」によるものは脳の生理的な老化が原因で起こり、その程度は一部であり、ヒントがあれば思い出すことが出来て進行性はなく、日常生活に支障をきたさない。
ところが「認知症」は脳の神経細胞の急激な破壊によって起こり、物忘れは物事全体がすっぽりと抜け落ち、ヒントを与えても思い出すことが出来ない。
更に本人に自覚はなく進行性であり、日常生活に支障をきたし、家族をはじめとした周りの者に負担が掛かっていく。
こういった症状の「認知症」を題材にしていると、悲惨で暗い内容になってしまうが、本作ではユーモアや家族の愛情や温もりを交え、飽くまで“日常の風景”の中で描こうとしているように見える。
そして「認知症」を患う父親を巡って、その妻や2人の娘、そして孫という3世代からの視点から浮き彫りにしていく。
認知症の父親・東昇平役の山崎努さん、その妻・曜子役の松原智恵子さん、長女・麻里役の竹内結子さん、次女・英美役の蒼井優さんという演技派の主要キャストの演技が素晴らしく、思わずこの家族の物語に寄り添いたくなってしまう。
介護は一人で抱え込まないで周囲の人に頼ったり、公的サービスを最大限利用すべきと言われるが、この作品でも、仕事を持っていたり、遠く離れたところに住む娘たちが掛かり切り状態の母親と連携して助け合っていく。
事実、映画で描かれた家族の7年間では、父親の介護以外に彼女ら夫々が何かしら問題を抱え、葛藤したり、苦悩したりしている。
そして、そういった状況での家族の支援や「認知症」であることを“自覚”していない父親は知ってか知らずか、本作のポスターやチラシのキャッチコピー「記憶は消えても、愛は消えない」にあるように、彼女らに対して彼なりの“愛情表現”をしていて、見ていると胸が一杯になる。
「認知症」は誰でもが何らかの形で、自身がなったり、親や配偶者がなったりして係わらなければならない“困難”だと思うが、本作ではこの“困難”へのより良い向き合い方、それも肩肘張らない“家族の日常”として捉え方に温もりと希望を感じる。
それがラストにおける家族の夫々の姿、在り方に滲み出ていると思う。