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長いお別れのスチールラグのレビュー・感想・評価

長いお別れ(2019年製作の映画)
4.0
今年の正月、故郷に帰省して、施設にお世話になっている老いた父と数日を一緒に過ごした。
俳句のクラブに入れてもらっているらしく、廊下ですれ違ったご婦人に「お父さん、筋がいいのよ~」などと言って頂き、明らかにお世辞なのだが、元来調子の良い父は至ってご満悦である。

父は目が不自由(弱視)でうまく文字が書けないので、年賀状の宛名書きをしてくれと言う。受け取った年賀状の裏をみると、まさにミミズが這ったような奇っ怪な文字が書いてある。
「汚くて何て書いてあるか読めない」と文句を言うと、俳句だった。四年前に亡くなった母のことを詠んでいる。花を生けている母が微笑んでいる、春の花をという情景だった。それからもう悪態をつくのはやめて、黙々と宛名を書いた。すでに鬼籍に入られた知人、友人の方々も多く、たいした枚数はなかったけれど。

老いも、死も身近なものである。父にとっても僕にとっても。
でも、この映画を観て、そんなに怖がることはないんじゃないかと思えてきた。
そんなに悲しむこともないいんじゃないか。
そんなに寂しく思うこともないんじゃないか。
なんなら、ちょっと温かいものなんじゃないか。
山崎努の「ザックリだ!」を聞きながらそう思った。
きっと、全てをさらけ出して死んでいくしかないんだろう。
いろんな人に迷惑をかけるだろう。今から謝っておきます。ごめんなさい。
親父、せいぜい長生きしてくれ。
僕も、せいぜい長生きしよう。
ありがとう、見て良かったです。

「長いお別れ」20190606TOHOシネマズ日比谷
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