小松屋たから

世界一と言われた映画館の小松屋たからのレビュー・感想・評価

世界一と言われた映画館(2017年製作の映画)
3.0
タイトルに惹かれて鑑賞。山形県・酒田。町を焼き尽くした火災の火元が、皆が愛していた映画館、それも、かの淀川長治氏から「世界一」と言われていた特別な映画館だった、という事実。故・大杉漣さんナレーション。

ただ、その映画館「グリーン・ハウス」に対する批判的な意見は採り上げられておらず、限られた人数のインタビューと短い資料映像、町の空撮の繰り返しで、カット割りもごく普通。正直、ドキュメンタリーとしても映画としても、ちょっと物足りないかな。。BS局のライトなノンフィクション風味。

でも、「この映画館の中だけは酒田と東京の差がなかった」、というコメントがあって、映画館ってやっぱり良い、という作り手の想いは素直に受け取れた。映画館経営って映画愛好家の究極の夢だな、と改めて感じる。発端はお金持ちの道楽かもしれないが、それこそ、古来からの芸能のあるべき姿だ。だからこそ、大火の起点となったことは残念。

ただ、今、日本各地で駅前にシャッター商店街が次々に生まれている現実を見据えながら、酒田でも火事はそれを単に早めただけで、いずれにしても町は同じように変わったのではないか、と自問する酒田出身の研究者の姿には考えさせられた。火事では死者も出ているし甚大な被害だったようなので迂闊なことは言えないけれど。

この映画館の他にも東京からわざわざ訪れる文化人が絶えなかったというフランス料理店なども経営していた佐藤久一氏。そして、スタンダードカクテル「雪国」の創始者で92歳にしてなお現役のバーテンダー・井山計一氏。

そんな稀な人物たちが生まれた酒田という町は興味深い。その粋な気風は港町であることも何か関係しているのだろうか。本作の監督が撮影を担った兄弟作といえるような井山氏の人生を追った同時期公開中の「YUKIGUNI」も観なくては。