CHEBUNBUN

ハースメルのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ハースメル(2018年製作の映画)
3.5
【カリスマ性のカリカチュア】
本作は、一見すると王道音楽青春ドラマに見える。華やかなライブシーンを提示する。しかし、酒とか音楽性の違いでメンバー内がギスギスしていく。そこから再生していき、最後は爽快なクライマックスを迎える。ありとあらゆる音楽映画で擦り倒されてきたプロットを踏襲し、クリシェにクリシェを重ねたような作品だが、観ると「あっアレックス・ロス・ペリーの作品だ」と分かる。『プーと大人になった僕』が過労に疲れた男が、過去のしがらみがない美しい世界に囚われていく様子を《プーさん》に象徴させ、皮肉混じりに描いて見せたように、この作品も痛烈なカリカチュアとなっています。

ズバリ、今回アレックス・ロス・ペリーは「バンドマンみたいなアーティストってステージ上ではカッコいいが、私生活は本当にクズだよね」という我々が頭の中で薄々認識しておきながらも、無視しようとしている事柄について批評しているのだ。冒頭、過激なファッションでステージに上がるBecky Something(エリザベス・モス)。ヴィジュアルとは少し乖離した爽やか声で歌う。彼女の歌には繊細さがある。しかしながら、ライブが終わり舞台裏にいくと、途端に傲慢さを観客にみせつける。まるで自分が女王で周りが下僕のように高圧的に振る舞い、狂ったように罵倒しジタバタ暴れ狂うのだ。

あまりに自己中心的で狂った姿に観客は、先ほどの爽やかで魅了されたライブのことなんか忘れて彼女にヘイトを抱くことでしょう。そして、これは過去の栄光に囚われた彼女が再びインスピレーションの源を見つけだして再生するまでの話へとシフトしていくのだが、徹底的に彼女の《外側》を魅せていく、疲弊していき蔑視の目を向けるバンドマンを魅せていくのです。

これは音楽好き、ライブとかいく人にとって胸糞悪い作品であることは間違いない。ひょっとすると映画ファンですら気持ち悪くなるのかもしれない。なんたって、日々の鬱屈した日常を離れ、自分が持っていないカリスマ性を持つ者から癒しを求めてライブに行ったり、映画を観たりする。監督はそれを批判し、実はバンドマンの裏の顔ってこんなにもクズだったりするんだよ。カリスマ性ってある種の独裁だよねと声高らかに叫んでいるのだから。

しかしながら、こういった我々が盲目になってしまうような視点としっかり向き合い、批評し続けるアレックス・ロス・ペリーのような映画監督は一人ぐらいいてもいいのではないでしょうか?コロンブスの卵を見つけ続ける彼の今後に期待である。日本でもちゃんと紹介されてほしい作家でした。