GreenT

ハースメルのGreenTのレビュー・感想・評価

ハースメル(2018年製作の映画)
1.5
女性パンクバンド、Something She のライブで幕を開け、すぐに公演後の楽屋裏に移ります。ボーカルのベッキー・サムシングは、コートニー・ラブを彷彿とさせる自己破壊的なパンク・ロッカーで、バンドのメンバー、別れた夫、マネージャー、お母さん、全員に迷惑をかけまくり、自分の乳幼児を抱いたままゲロ吐いてぶっ倒れる。このシーンが45分くらいあっていい加減イライラしてくるのですが、この「早く終わらないかなあ~バカげているなあ~」っていうのがベッキー・サムシングの周りにいる人が感じていたことなんだろうなあと思いました。

ストーリーは、90年代にスピン・マガジンの表紙を飾り、ゴールド・ディスクを獲得したSomething She のカリスマ・ボーカリスト、ベッキー・サムシングが、新人バンドに追い越され、夫とは別れ、ジャンキーになり、リハビリをやり、復活するという王道ロックスターものなのですが、監督・脚本のアレックス・モス・ペリーは、ベッキーのキャラのモデルはアクセル・ローズで、一つのシーンをダラダラ撮るのは2015年の『スティーブ・ジョブズ』の影響を受けたとインタビューで語っていたそうです。

90年代の女性パンクバンドのリアリティがあり、『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』など、男性中心のメインストリームのバンドとは違う「ロックスター伝記もの」だと思いました。もちろん、この映画はフィクションですが、『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』だって、「実在したロックスターを基にした創作」とも言えますよね。どこまで本当かわかんないし。

Something She の楽曲は、 Bully's という実在するバンドのAlicia Bognanno という人が手掛けているらしいので、こういう音楽好きな人や、また元スーパーモデルのカーラ・デルヴィーニュ、ジョニデの元妻アンバー・ハード、そしてもちろんエリザベス・モスの芸風が好きな人はハマるかもしれません。

余談ですが、エリック・ストルツがバンドのマネージャー役で出ていてビックリ。

エリザベス・モスはプロデューサーでもあるので、かなり彼女の色が濃くなっていて、ベッキー・サムシングは『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』のジューンと全く同じ、「フェミニスト・キャラ」だなあと思いました。

エリザベス・モスのフェミニスト・キャラは

肌が汚くて太っている
男に支配されない
主張を曲げない

キャラで、こういう女性を否定することで社会はフェミニズムを抑え込んでいるんだから、そういう人を主人公にして描くことで偏向した女性のイメージを払拭し、「等身大」の女性とはどういうものなのかを提示しているのかなあと思った。

その心意気は買いたいんですけど、ちょっとやりすぎというか、暑苦しいというか、ウンザリするレベルまで引っ張るんですよね~この人。この映画のベッキーのキャラは、「ああ、ここまでウザい女だったんだ」ってことを表現したいのでしょうから、「もう観たくない!」って途中で止めた人の負けっていうか、「みんなが分からないから、敢えて見せているんだ!」ってことなのかな~と。

あと、エリザベス・モスのフェミニスト・キャラのもう一つの特徴は、子供に対する愛情が強いんですよね。すげえ自己中で、他人をキズつけても気にしないのに、子供のことはすごく気に掛ける。これは、「社会的に酷い女と言われているからって、悪い母親とは限らない」みたいな主張なのかな?と思うのですが、なんだろ、「自己投影としての愛情」みたいな、結局は自己愛?

原題の『Her Smell』も、自分の娘の匂いのことらしくて、ロックスターとして復活できるかもしれないけど、子供の匂いを嗅いで思いとどまる、みたいな。

子供の件だけじゃなくて、全てが自己陶酔的で、全然共感できないんだけど、ロックスターってこういうナルシストばかりなんだろうから、これがリアリティで、自分も若い時あれほどロックに心酔していたのは、虚構の世界しか見ていなかったってことなんだろうなあ。

オリジナルの楽曲も最悪で、それなのに1曲丸ごと演奏するシーンがいくつも入っていてウンザリする。ブライアン・アダムスの『Heaven』も丸々一曲やるのかよ!とウンザリしたけど、これは曲が悪くないから聴いていられたけど。

この、「曲が良くない」って言うのも、ある意味「「パンクバンドのリアル」なのかな?

個人的には質の悪い映画だと思うんだけど、もしかしたらこれって実験的でリアリティを追及しているからそう見えるだけかも、と思わされる不思議な映画だった。ってことはロックスターの本当の姿は、映画にするほど面白くないもので、「楽しめるロックスター映画」はかなり装飾されているのかな?って思った。