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十二人の死にたい子どもたちのokomeのレビュー・感想・評価

3.5
「ありがとう。僕はもう大丈夫」
「いつだって、一人で死ねる」


観た後に気づいたんですが、これ監督堤幸彦だったんだ……。
一時期邦画を観なくなってしまった元凶の一つ、悪名高き堤ブランドだと事前に知っていれば決して観る事のなかった作品。今回に限っては事前情報を全く入れて無くて本当に良かった。
信じられない事に、思いのほか引き込まれてしまう良作に仕上がっています!
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる……いや、さすがにそれは他のスタッフやキャストの方々にあまりに失礼な物言いですが、本当に、堤幸彦監督作品だと念頭に置けば傑作と言っても過言ではありません。


物語はタイトル通り『十二人の怒れる男』をオマージュしたような内容。
「安楽死をするかしないか」、端から満場一致で賛となるはずの議題に於いて、一つ不可解な事柄が見つかる。それに対して一人が疑問を持ち否を唱えた事で、思わぬ事実が明らかになっていく。
素晴らしいのは、オマージュ元と同様に謎を解き明かすミステリーを主軸に置きながらも、その過程で描かれるキャラクター1人1人の背景、人物像の掘り下げが大きな見所となっている点。

今作では集まった十二人の少年少女たちの「安楽死をしたい理由」がそれなんですが、きっと原作が優れているのでしょう。物語を追っているうちに、ミステリの真相よりも、彼ら各々の個性的な死にたいと思うに至った原因、何に悩み、物事をどう考えているかの方が知りたくなってきてしまう。
演じている演者の皆さんも、「今が旬の若手俳優大集合!」という安い売り文句など吹き飛ばしてしまうほど、堂々とした演技でキャラクターに実在感を持たせてくれています。そのお陰で、登場人物が12人と決して少なくないはずなのに、その全員に結構早い段階で愛着が持ててしまうのです。
特に、感受性が強いお陰で死にたい欲求が人一倍大きい、その代わり他人の気持ちも良く汲み取る事が出来るスカイハイな7番と、どこまでもマイペースなギャル子ちゃんが好き。
また、そのギャル子ちゃんが、自分の死にたい理由を笑われて「みんなと何が違うの!?」と叫ぶセリフが印象的でした。
そう、何も違わないんだよな。


「死にたい理由」、病気やイジメや事故や、色々あるけれど、実はそこには貴賎の差なんか無い。
大事なのは、等身大の少年少女たちが、「死」について自分たちなりにきちんと向き合って思い悩む姿そのものだ。それはきっと、「将来」と言い換えても良いと思う。
1人で悩んでいると、どう考えてもこの先不安しか無いように思えて逃げ出したくなってしまう。
だけど、実は周りには自分とよく似た他人って沢山いて、そう認識出来るだけで意外と生きていく活力に繋がったりするものです。
観ている間、もうなんか皆いい子たちだし、それをどうにか伝えたくて仕方なかったんだけど、最後の展開できちんとそれを汲んでもらえた様でこちらが救われた気分になりました。


意味不明の黒フード集団とか、ピカピカし過ぎな雷とか、蛇足でしか無いスタッフロールの映像とか、どうしようもなくダサい部分は幾つもあるんですが、それでも今回、きちんと映画として楽しませてくれた監督にはお礼を言わなければなりません。

ありがとうございました。
どうか、数年に一度で良いので今後もこう言う真摯な作品を撮ってください。
そうすればお金も無駄にならないし、自分も映画を観ながら退屈で「死にたい」なんて思わずに済みますので……。
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