吉田コウヘイ

悪魔はいつもそこにの吉田コウヘイのレビュー・感想・評価

悪魔はいつもそこに(2020年製作の映画)
5.0
父親の太平洋、息子のベトナム。2つの戦争の間を舞う人々。それをいつもそこにいながら操り見守るのは、原作者ドナルド・レイ・ポロック自身による悪魔のナレーションだ。

デレク・シアンフランス『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』、マーティン・マクドナー『スリー・ビルボード』に連なりながら、それらよりエンタメ的カタルシスは後退し、ノワール的ムード、ミア・ワシコウスカとロバート・パティンソンの短いながら鮮烈なゴシック的存在感、光と影で魅せるヴィジュアルが、神の不在に振り回される人間の弱さ愚かさを際立たせる。

ラストのシークエンスはポン・ジュノ『パラサイト』と通じる切なさ哀しさで、なんとも複雑な情感が胸に迫る。そこに映る、トム・ホランドの抱きしめたくなるイノセンスが素晴らしい。