ガンビー教授

ホットギミック ガールミーツボーイのガンビー教授のレビュー・感想・評価

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あのアバンタイトルの長回しだけで「この映画は100点以上の何かだ」と悟る。短いシーンでさえ「"赤本"という小道具にはこんな映画的な空間を生み出す使い方があったのか」と驚く。絵に描いたようなベタさと思いがけない先進性が騙し絵のように共存している。

日本の"そのへん"の都市で撮った映像なんて、映画的な意味においてどうやっても「絵にならない」ものだという一観客の傲慢な愚かさに満ちた怠惰な先入観を、映画の最初から最後に至るまでほとんどすべての場面において吹き飛ばしてしまったこと。これこそ日本映画の最前線だと宣言するのにためらいの要らぬ思い切りの良さと意外性に満ちあふれた映像、瞬間瞬間に炸裂する未知の映像ギミックや見たことのない繋ぎ方によって観客を呆然とあるいは陶然とさせ、これから映画を志す多くの若者の道を誤らせ続けるであろうこと(大火傷を負いたくなかったら、山戸結希の真似だけはしてはいけないと思う)。個性と才気に満ちあふれた某監督に「自分の作品の凡庸さ、自分の監督としての甘さが恥ずかしくなる」などという言葉さえ吐かせたこと。僕も自分の言葉の凡庸さを恐れず言うなれば、山戸結希監督こそ天才という形容にふさわしい人だし、一部の良心的な人々を除いて、日本にあまたいるおっさんの映画批評家たちなどの批評言語なんて歯も立たないであろう領域を驀進しまくっているのが痛快。この人にはずっと映画を撮り続けてもらわなければならないし、仮にこの人の居場所が作り出せない映画界などというものがあるとすれば、それこそ丸ごと滅んでしまえと思います。

いや、マジで山戸監督は日本映画の新たな地平を切り拓きうる最有力候補だと思います。個人的には『溺れるナイフ』からまた何段も上に行っていると思う("女の子"という言葉で呼ばれる存在について、躊躇なく踏み込んだテーマ性も含めて)……現代日本の都市をカメラと編集によってあんな風に映画的に再構築できる人が他にいるだろうか……繰り返し画面に切り取られる遠景のクレーンが理屈抜きで素晴らしい。なぜかは分からないけど涙が出る。

日本のあちこちの映画館の暗がりでこの映画に共感する観客も大勢いるのだろうし、それはそれで素晴らしいことだが、僕個人はこの映画に"共感"できるような観客ではなかった。映画というのはそれで全然良くて、個人的に共感できるかどうかなんていうのは些末な側面に過ぎないし、もともと映画は他者だと思っている。

単純に、2019年中に映画館で見た映画の中では一番興奮した。

ソフト化の報がなかなか聞こえてこなかったので心配していたが、来春に出るらしい。あと、今月の28日からNetflixを通じて世界的に配信されるもよう。海外の届くべき観客に(事故的に)届いてくれたら嬉しい。
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