愛鳥家ハチ

プライベート・ウォーの愛鳥家ハチのネタバレレビュー・内容・結末

プライベート・ウォー(2018年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

実在の戦争ジャーナリストであるメリー・コルヴィンの伝記作品。なかでも野戦病院でのシーンが圧巻でした。以下、印象的だったメリー・コルヴィンのセリフについて述べます。

ーー戦争報道とは
「戦争報道とは、人が死に、自分が死ぬかもしれない場所に行くことである」
 →死地に向かう戦争ジャーナリストの気概を感じました。彼女は作中でも、現実でも戦地で命を落とすのですが、覚悟の上とはいえ、余りにも悲しい事態。物語の終盤にかけて、もう十分やった、逃げてくれと心の中で何度叫んだことか…。

ーーバタフライ効果
「(戦争報道で現実が変えられるかとの問いに)人々が関心を持つと信じている」
 →人々の関心を呼び起こし、国際世論を形成する。そうして、紛争地に救いの手が差しのべられる。たった一報の短信や一枚の写真が世界を動かすことも確かにあります。報道の力を信じているからこそ出た言葉だと思います。

ーー真実の担い手
「戦っている勢力が真実を曖昧にするときにこそ、真実を伝えなければならない」
 →正確に伝えなければ真実がねじ曲げられかねない危機感の表れ。ジャーナリストがいずれの当事者にも与せず中立であると宣明しています。

ーー勇敢さ
「老いた記者と勇敢な記者はいるが、老いて勇敢な記者はいない」
 →危険と隣り合わせの現場で、いつまで現役でいられるのか。引退のタイミングの難しさを示していると思います。

ーー戦争とは
 マーサ・ゲルボーンの著書によれば、「政府は戦争をいとわない。なぜなら現実に負傷することはないから」とされており、また、メリー・コルヴィン曰く、「戦争は、限界を超えて生きる民間人の静かな勇気である」とも。
 →前線の兵士ももちろん命懸けですが、いつの時代も最も割を食うのは無辜の民です。メリー・コルヴィンが心を寄せたのはそうした民間人でした。

ーーPTSD
「人体のもろさや、いかに簡単に金属が人の身体を裂くのかを一度見てしまうと…」
 →凄惨な紛争の現場がいかに人の心を摩耗させるのか。「PTSDは兵士がなるもの。私は正常よ」とのセリフもありますが、精神にダメージを受けて動揺したアンビバレントな感情が滲み出ていました。

ーーシリアにて
 野戦病院の母親曰く、
「一世代が死につつある。この状況を伝えてください」と。
 メリー・コルヴィン曰く、
「飢えて無防備な2万8千人の民間人が寒く過酷な環境に残されている」と。
 →2012年のシリア・ホムスは、1分間に47回の爆音が轟く環境。そんな中で民間人のために報道を続けた信念の崇高さに敬服します。

ーー恐怖の先に
「恐怖を感じれば行きたいところにはたどり着けない。恐怖は全てが終わった後に来る」
 →感情のスイッチをオフにできるという彼女の特別な才能が戦争報道の成果をもたらしましたが、同時に彼女の命をも奪ってしまいました。戦争報道の困難さが際立っていたように思います。

ーー総評
 本作は、メリー・コルヴィンという"信念の人"の業績を知ることのできる作品でした。ロザムンド・パイクの剛毅な演技も見所です。大変見応えがあり、多くの方々におすすめできる映画であるといえます。
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