NinaSinnerman

プライベート・ウォーのNinaSinnermanのレビュー・感想・評価

プライベート・ウォー(2018年製作の映画)
4.3
痛い。
皮膚の表面が、チリチリと痛む。
見ているうちにそれがずっと奥の方まで届いて、吐きそうになる。
なのに目は離せない。

メリー・コルビンを、ロザムンド・パイクが演る。
軽く済むワケがない。
見ていて、どうにも酷く、辛い。
「私が見るから、あなたは見なくていい」
そう言った彼女が見たであろう景色の1%を俳優たちが再現し監督が演出したものを目にするだけでこれだ。

プライベート・ウォー。
戦争を起こすのも続けるのも人間。
戦地で発砲するのも爆弾を発射するのも人間。
撃たれて死ぬのも、瓦礫の下敷きになって死ぬのも、逃げ回って泣きながら野垂れ死ぬのも全て人間。
誰もが誰かの子どもであり、かつ誰かの親であったり、兄弟だったり、友人だったり、恋人だったり、恩師だったりする。
誰もが当人で相手で第三者。
誰もがそれぞれに持つ感情。
連続する銃撃音、爆撃音、飢えと寒さ、血を流し泣き叫びながら目の前で失われていく命。
正気を保つ方が難しい。
何が正しいのかもわからない。

そんな状況の中で自らの命を失う恐怖に打ち克つのが実は自分自身では意識すら出来ていない"使命"で、それがそのまま意志となり、それだけに突き動かされて行動する。
それはもう人間の所業ではないのかも知れない。

メリー・コルビン。
彼女は死にたいワケじゃない。
誰かのそばで心の平穏を得て過ごせたならそれは間違いなく彼女も望むもの。
でも彼女の使命=生命は、戦地で流される血と涙をその"目"で見て、爆撃音でかき消されていく彼らの"声"となることだったんだろう。

彼女の上司が叫ぶ。
Everybody loves you, but you're the fucking pain in everybody's ass!!!
誰もが目を背けたい、じゃないと笑って生きていられない、そんなものを彼女だけが目の前で見ている。
心から尊敬する、だけど本当は彼女の存在ほど邪魔なものはない。

プライベート・ウォー。
それは矛盾、てことだと思う。
誰もの胸の中にある何かしらへの葛藤、果たされない望みへの失望。
その葛藤や失望を受け入れたくないが故の思考の停止、感情の暴走、暴挙、からの誰も本当は望んでいない暴力。
それが、戦争、じゃなかろうか。

エンディングテーマを書き下ろし唄ったアニー・レノックスも流石、素晴らしかった。

余談: これを見て戦争について考えたい人にはスパイク・リーの『セントアンナの奇跡』も奨める。
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