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パリ、嘘つきな恋のクレセントのレビュー・感想・評価

パリ、嘘つきな恋(2018年製作の映画)
4.5
ひょんなことから車椅子の障がい者だと思われた彼。同じ車椅子の女性に恋をしてしまった。ある時彼女がスポーツの仲間たちを紹介した時のことだった。彼女は障がい者のテニスプレーヤーでもあった。そこで彼は日頃から疑問に思ってたことを率直に尋ねたのだった。君たち、どうやって対戦相手を決めるんだい。例えば脚のない人は脚のない人同士とか。相手が一本脚しかないとどうなるの?両腕のない人たちで戦うの?君の鉄の義足は木製より早いだろう?水泳の場合はどうなるの?大体誰がクラス分けをするんだろうか?彼の言わば愚かな質問に彼女は黙って聞いていた。彼女の仲間が言った。貴方スポーツの経験はあるの?彼はスポーツに疎い障がい者だと思われたようだった。もっと自分の体を愛せよだよ。現実と向き合うんだな。彼らはみな屈託なく答えた。それを聞いて彼はタジタジとなった。自分はいままで彼らを勘違いしていたことに気が付いたからだった。実はそのあと、彼の秘書に頼んで彼女の家に行ってもらった時のことだった。秘書は彼女を見て驚いて言った。美人ですね。貴女は幸運だわ。どうして? 彼女は聞き返した。だってつらい経験をされてるし、そして生き方が前向きだから。そして人生を理解してるし、感謝している気がするの。まるで人生という長い旅のなかで闇を照らす灯りを持っているように思うわ。そこで彼女は笑みを浮かべながら言った。女性はみんな、訪れた恋が続くように願っているわ。でもね、私たちにはそれが訪れないのよ。

この映画の原題(Tout La Monde Debout)はまさにこのシーンにあった。世のすべての者たちは皆立っているのだよと。車椅子の障がい者だって同じ。身体は立てないけれど、心の中では普通の人たちと同じようにちゃんと立っているのだよと言っているのである。母国フランスでは大当たりした作品だが、それは既に社会がそれを受け入れていることを示したもので、もはや上辺だけの同情や憐みの時代から抜け出たことを意味しているのである。
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