あまね

ティム・バートンのコープスブライドのあまねのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

19世紀のとある村が舞台。
家名が欲しい成り上がりの豪商と、お金が欲しい没落貴族。そんな両家の思惑を背負わされたそれぞれの息子《ヴィクター》と娘《ヴィクトリア》は、否応なく政略結婚させられることになる。
けれど、森の中でひとり結婚の誓いの練習をしていたヴィクターは、誤って《死体の花嫁》エミリーに誓いを捧げてしまい、死者の国へと連れ去られることに……

生者の村は閉塞感に満ち、色はなく、誰の表情も不機嫌。
いつも誰かに見られており、自由はなく、流されるままで息が詰まりそうになる。
一方で死者の国には色が溢れ、みんな骨しかないのによく笑い、よく歌い、よく動く。
地上=生の閉塞感から死んでようやく解き放たれるのかと思うと、なんとも言えない気分になる。なかなか手厳しい表現だ。

ヴィクター、ヴィクトリアは生者であり、物語の終盤まで自分の置かれた状況に流されていった。
時に抗うものの、抗いきれてはいない。死に物狂いの抵抗ではなく、抵抗を試みるけれど結局あきらめるといった感じが、生者の世界の薄暗さによく似合う。
ヴィクターを愛してしまった死者エミリーはとても感情豊かで、一途で、でも報われない。ヴィクターは逃げるばかりだから。でも逃げきってはくれないから。
三人の閉塞感がとても感じられて、テンポは良いのになかなか重たい印象だった。

そして! 観ていて何よりも感じたのは……そう……ヴィクターよ……お前、優柔不断過ぎだああ!
ヴィクトリアに一目惚れしておきながら、そのうちエミリーにも同情してしまうヴィクターは、本当にエミリーを愛しているかどうかを自らに問うより先に、彼女と添い遂げる覚悟をしてしまうのだ。
まったくもって優柔不断。流され過ぎだろ!なんたること!
……といつもなら怒るところなんだけど、この作品では不思議と怒りはなかった。
そういうものなんだ。そういう世界なんだ。そういう息苦しさなんだ……そんな風に感じてしまうのは、この作品全体が彼らが住む世界の薄暗さをこちらの骨身に沁みさせてくれるからだと思う。

切ない映画――胸が痛むとかそういう方向ではなく、息苦しくてやるせない切なさに満ちている物語だった。
そしてラストでその息苦しさが少しだけ昇華されて、薄暗い世界に色がついたと思う。それがとても印象的だった。

観終わって感じたのは、物語の中で《生きて》いたのは、死者であるエミリーじゃないかなということ。
彼女が死者になったエピソードも、ラストの決断も、彼女は自分自身の意思を通していたから。
それがどんなに愚かだったとしても、彼女は周りに流されてはいなかったと感じている。
最後に彼女なりの幸せを手にすることができて、とても良かった。

独特の雰囲気の、童話のような物語だ。
あまね

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