ラウぺ

マシュー・ボーン IN CINEMA シンデレラのラウぺのレビュー・感想・評価

3.8
コンテンポラリー・ダンスやバレエの振付・演出家のビッグネーム、マシュー・ボーンによる「シンデレラ」。10月には東京公演が行われていましたが、こちらは2017年ロンドン公演の模様を収録したもの。

シンデレラのバレエといえば音楽はセルゲイ・プロコフィエフ。
第二次大戦中に書かれ、初演は1945年と交響曲第5番などと同時期の、作曲者が健康を害す直前のもっとも充実した時代の作曲。バレエは3幕からなり、あらすじはよくご存知のとおり。
で、マシュー・ボーンの「シンデレラ」の奇抜なところは舞台を第二次大戦中のロンドンに設定したところ。
物語は実在したダンスホール「カフェ・ド・パリ」が爆撃により大勢の犠牲者が出たことを下敷きにしているとのことですが、継母とその兄妹にいじめられているシンデレラが舞踏会に行くという基本のあらすじは同じながら、シンデレラの相手はRAF(イギリス空軍)のパイロット、爆撃で荒廃したロンドンの街を片方の靴を持ちながらシンデレラを探す、というストーリーとなっています。
1,2幕の音楽は若干変更されたところがあるとのことですが、3幕はオリジナルのまま使用。
バスドラムやタンバリンなどが登場する箇所で自然に物語に溶け込ませているところも注目です。
3幕ではディベルティスマンの要素がほぼない音楽なので、カーテンコールではもっとも有名なテーマが再び登場し、豪華に締め括られます。

衣装はトウシューズにレオタードといった古典的なものとは違い、軍服にドレス、ハイヒールといったスタイル。実際に観るまではこれでスマートに演じられるのだろうかと思ったのですが、結果的にそんなことはまったくの杞憂でした。
バレエといっても終始踊り続けているというわけではなく、動きの少ないところはイメージ的にはパントマイムに近い雰囲気だと思います。
それはバレエというイメージからは想像できないほど演劇的要素の強いもので、これを演じるにはバレエ・演劇両方の素養がないと不可能かと思われました。
感情の微妙なニュアンスまで演じ切ることで、しっかりとストーリーのある物語をセリフ無しで伝えることに成功していたと思いました。

バレエ・演劇の複合的な演出という点では第2幕の冒頭、破壊された店内を天使が時間を巻き戻すことで往時の活気が蘇るところなど見事というほかありません。
もちろん、純粋なバレエとして見ても見どころは大変多く、特に第1幕でのシンデレラがマネキンと踊るところや、天使がパイロットとの間を取り持つ場面での絶妙な絡み、第2幕の「カフェ・ド・パリ」での集団での踊りなど、思わず身を乗り出すレベル。
ライブなので素晴らしいと思うところに時折拍手が入りますが、映画なので拍手ができないことが逆にもどかしく感じるほどです。

約2時間があっという間に過ぎ、大変心地良い体験をすることができました。
実際のライブを見たらもっと大きな感激があるのかと思いますが、劇場に通わずにこうした画期的な演出を気軽に体験できるのは大きなメリットだと思います。

マシュー・ボーンの「白鳥の湖」2019年東京公演の先行予約のチラシが劇場に置いてありましたが、中央に載っているオデットはなんとオトコ。
後から調べるとこの「白鳥の湖」の初演は1995年で、来年の東京公演は5回目なのだとか。
時代はとっくの昔に先に行っているのでした。
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