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ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREYのsanbonのレビュー・感想・評価

3.7
「カワイイ!」だけが褒め言葉の映画で本当にいいのだろうか。

僕が「DCEU」の作品の感想を述べる際には、必ずと言っていい程「MCU」を比較対象として引き合いに出してしまうのだが、その理由は一貫してなんだか絶妙に"ハマれない"からという他にない。

今作も、アクション、キャラクター、ビジュアルなどなど、秀でたポイントは多分にある反面、何故か拙いと思える箇所もあったりして、非常に"不完全"感が拭えない出来となっていた。

まず、言及しておかなくてはいけない点としては、DCEU版「ジョーカー」の事実上の抹殺である。

今回は「ハーレイ・クイン」とジョーカーの"破局"が軸として展開されていく物語となっているのだが、内容を見る限りどうやら今後ユニバース内でジョーカーが再登場する事は決してなさそうだ。

それは、ハーレイ視点の一方的な進行と、劇中に「ジャレッド・レト」の顔出しが一切されない事からも明白であった。

この現象は、本来あるべきユニバースの"醍醐味"すらも完全に無視する行為でしかなく、製作を統括しているプロデューサー役の力不足が目に余る事象と言えるだろう。

そして、その醍醐味とは"繋がり"を感じられるという点だ。

何故、わざわざ同じ世界観を共有するユニバースとして作品を世に放つのかというと、それは別の作品で語られた物語やキャラクターが"クロスオーバー"する楽しみを与える為であり、今作もDCEUの作品群の一つとして製作されたのならば、前作「スーサイド・スクワッド」に関連する情報をもっと劇中に散りばめていないとおかしいのだ。

それなのに、今作の話としてはハーレイのその後のみをフォーカスし、まるでスーサイド・スクワッドなんてなかったかのように物語が進んでいく。

もし仮に、今後もジョーカーの登場が予定されていたとしたら、序盤だけでもいいからしっかりとジョーカーの視点も描き、後の伏線になるような展開を忍ばせるくらいの事はする筈である。

少なからずMCUならそうしている。

というか、そもそも同時期にユニバース外で「ホアキン」版のジョーカーを作ったり、スーサイド・スクワッド自体をリセットしようと、現在「ジェームズ・ガン」の指揮のもとリブート版が製作進行中であったりと、ゴールを見据えていないかのような計画性のなさが目立ちに目立ってしまっている。

これだからDCEUの世界観には惹きつけられるものが足りないと感じてしまうのだ。

そして、今作の更なるなんだかなぁポイントは"編集の下手さ"にある。

ジョーカーの後ろ盾を無くしたハーレイが、これまでしてきた傍若無人な態度の数々により命を狙われる羽目になるという単純至極なプロットを、何故こうもややこしく時系列をごちゃつかせてまで分かりにくくしてしまうのか。

ただでさえ、今作では「バーズ・オブ・プレイ」結成に至るまでの前日譚としての要素も含まれており、主要人物が複数登場するのだから、語るべき視点も多く、まとめあげるのも一苦労だというのに、何故現在進行形の物語を一旦止めて時系列を遡る手法を選んだのか。

それにより、ぶつ切りのような印象が強くなっていたし、時間が遡る度に流れが一度止まってしまうからテンポも悪く感じ、そのうえで上記で述べた主要人物の渋滞が起こっていた為、非常に雑多な感覚は拭えなかった。

もっとストレートな進行でなんら問題はないと思うのだが、 DCEUの悪いところはこのなんでもかんでもややこしくしようとする悪癖にあると思う。

ただ、いい点も沢山あった。

まずはアクション。

今作は、女性が主役のアクションという事もあり、戦い方に女性らしさがしっかり取り入れられていたのは素晴らしかった。

力業で敵をなぎ倒す事をせずに、身軽さを強調させ力学を応用したカウンターや投げ技に特化させていたのは、中々に見応えがあったしなにより目新しさを感じられるものになっており、凄く良かった。

そして、女性陣も年齢や人種に捉われない個性溢れるキャステングでチームを形成していたのは、今流行りの"ポリコレ"の潮流もあってなのだろうが、非常に見栄えのするビジュアルを確立出来ていたと思う。

その為、映画的な画作りとしてはクオリティ高く製作はされていたと思うのだが、やはり今回問題視した編集も相まってか、ストーリー面に関してはどうしても底の浅さを感じてしまう。

ユニバースのもう一つの醍醐味として、関連作品が増える事による"世界観の深化"があると思うのだが、DCEUでは今のところその要素は感じられずにいる。

今後も、この一連の企画は継続していくのだろうが、先達者であるMCUから学べる事はまだまだ多く、そして学べる立場にいる幸運をしっかり利用して更なる向上を期待したい。
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