ルサチマ

アド・アストラのルサチマのレビュー・感想・評価

アド・アストラ(2019年製作の映画)
4.8
劇場公開以来。ジェームズ・グレイここまで到達したのかという気持ちで放心する。
ポール・ヴィリリオが『トーチカの考古学』で小要塞の内部を包む暗闇の中にただひとつ開口部が存在するというカメラオブスクーラに類似した建造物へ魅了され、『消失の美学』で意識の喪失とともに眼差しをレンズへと同化させる快楽について論じたように、ジェームズ・グレイは宇宙空間に存在する闇へと向かう。
宇宙服で頭を覆う球体型のレンズ越しに見つめる宇宙船内では必ずどこかにフレーム内フレームが存在する。

ブラッド・ピットのいる空間とは別にフレーム内フレームが接続する空間では他の作業員たちが労働に従事しており、彼らがブラピのいる空間へと足を踏み入れた時、亀裂は生まれる。

フレーム内フレームで孤立するのは徹底してブラピと彼の探し求める父の存在であり、彼らが再開した時にロングショットで宇宙船内のフレームに2人が束の間であれ互いに収まりあう瞬間に感動する。

フレームから排除し、排除され続けた親子は、父親が存在のわからぬ無を追い求めて彷徨うのだとすれば、息子は父の存在を探す目的の中で無へと近付いてしまう。

しかし映画の進む過程で絶望的な死の反復からブラピが逃れたことがあるとすれば、それは血のつながらない奥さんによる呼びかけが、彼を生へと向かわせたのかもしれない。

思想も性別も異なる他者が呼びかけ続けること。ラストシーンが地上へ帰還したブラピが奥さんとの待ち合わせをして、ブラピの待つ喫茶店内への扉(=フレーム)を奥さんが開けて入ってくる。ただそれだけの導線と切り返しが的確なフレーミングで男女を結び/切り離している。
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