曇天

アド・アストラの曇天のレビュー・感想・評価

アド・アストラ(2019年製作の映画)
4.8
良い映画~。SF映画として見ると物足りない部分も多いだろうが、自分は人間ドラマとして観れたのでラストにとても感動できた。単純にこれ一人の男のターニングポイントの話やんと。しかし途中、最後までよくわからないノイズがよく挟まってきやがって、かゆい所に手が届かない散漫さもあるなぁと思いながら観てたけど、最後で納得すると案外ノイズも全てするっと飲み込むことができた。単純な頭だなと思う。

『プラネテス』『ゼロ・グラビティ』など、寄るべない宇宙空間を使って孤独な精神状態を表現しようというのはよくある手法。究極的に孤独な状態を表現する舞台装置として宇宙空間を使っているのであって、宇宙における新解釈等を紹介しようという映画ではなかった。スターチャイルドを登場させた『2001年宇宙の旅』とは真逆の方向で攻めることで、宇宙での孤独さを表したといえる。

端的には、父親によって歪められた人生を見直して立ち直るロイにとってセラピーのような旅だったと思う。だってずーーーっと俺孤独ー、家庭を捨てた親父のせい、嫁とは家庭内別居で気まずい、親父と会うのやだわー怖いわーとか言いつつも、それを心拍数に出さずに平静を装いながら出発し、殺されそうになりながら頑張るけど結局一人孤独で任務遂行しなきゃならなかったあのロイのラストの姿を見ちゃったら、そりゃもう大感動ですよ。よかったねよかったね、人生の清算できて良かったね映画です。本当SFじゃないよこれ。

中盤で展開する、任務を妨害しようとするスリラー的要素はいろんな方向へミスリードを誘いにきてて(猿は未知のウイルスか?とか、味方に見えるが実は?の陰謀説とか)、ぱっと見中途半端だけど終わってみればこれらはロイの「不安定な精神状態の表れ」でまとめて良いと思う。もしくはただの偶然。近未来なのだから多少へんでも設定は自由だし、たんなる偶然に余計な意味を付け加えて陰謀を疑うような行為は現実ではたいてい無駄に終わる。この映画は映画的な現実度が現実に近く、突拍子もないことは起こらない、と設定されている。建造物や調度品が古めかしいデザインなのはそのためで、極力未来を意識させないようにしている。『2001年宇宙の旅』に近づけたのはむしろ映画デザイン上の都合だと思った。

現実度が現実に近いから、見せ場も高揚感もない。伏線は伏線ではない。現実の人生では人は何の意味もない死に方をするし、英雄は英雄的行為をすることでなるのではないからだ。

なぜ現実に近づけたかったかというとそれはやはりSFではなく人間ドラマが主軸だからだ。いや、「SFだと思った?残念人間ドラマでした」くらいの意地悪さもある。とにかく、執拗なまでに「地に足付けろ、英雄になどなるな」というメッセージを訴えてくる映画。昨今洋画では珍しく「家族」とは言わず「自分の人生」を大切にしろというメッセージも良い。時代感出てて世知辛さも感じるなぁ。
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