Stroszek

アド・アストラのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

アド・アストラ(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

地球外生命体を探しに行きそのまま戻らなかった偉大な宇宙飛行士を父に持つロイ。地球でサージと呼ばれる電気嵐が起こり、原因は海王星あたりで出発から16年後のいまも生存している父と聞かされる。彼を説得するために、自身も宇宙飛行士であるロイが派遣される。

非常に内省的な映画だった。ほかの惑星への出発前に、ロイが精神状態をチェックされる場面が何度もある。彼の精神は鏡面のように静謐で、他人と距離のある人物として提示される。彼の心拍数が80を超えることがないため、無理矢理作り出したような緊迫感がないのが好ましい。前半はあくまで静か。

それだけに、「身近な者を大切にする。大事な他者に身を委ねる」という凡庸な結末はがっかりだった。特にロイが、自身の目的のためであれば宇宙飛行士3人の命を犠牲にすることも厭わない人物であることが明らかになったあとには。

地球外生命体を見つけるという崇高な目的のために、船長であるにもかかわらず船員を全員殺す父と、自分で父を回収するために乗るはずではなかった宇宙船に無理矢理乗り込んで止めようとした3人の命を犠牲にする息子。パラレル関係にある。

ロイのせいで亡くなった乗組員の中には、黒人女性と、「ヨシダ」という名前のアジア人男性がいた。

おまけにロイはその後処分を受けた形跡がない(おそらくサージを止め、結局父を生きては連れ帰らなかったからだろうが)。「能力のある白人男性が、目的のために他者を犠牲にするのは致し方ない」という、究極のメリトクラシー映画だった。
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