ベルサイユ製麺

復讐のトリックのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

復讐のトリック(2017年製作の映画)
3.2
韓国映画で黒っぽいジャケットに顔が半分影になった男、タイトル『〇〇の××』とくれば、ある程度本数観てる方なら内容の想像がつくってもんだよ。
きっと“無実の男が政治家と結託した検事に嵌められて無実の罪でえらい目に遭って、最終的にそいつらを短い刃物で滅多突きにする陰惨な作品”に決まってます。それでも実直な(顔の面白い)看守は彼の事を信じてるんだよなぁー。


1940年代の中頃の韓国が舞台。
被告人ナム・ドジンがチェ・スンマン氏を殺害しバラバラにして屋敷の火炉で焼却したという事件、いわゆる石造邸宅殺人事件の裁判が始まった。ナム・ドジンは犯行後現場にいたところを逮捕される。全身に血を浴び、手には銃を持っていた。遺体は既に火炉で焼却された模様で、唯一チェ・スンマンのものと見られる指一本だけが現場から発見された…!

場面変わって…
ある雪の夜、喫茶店。
顎髭の紳士に1ウォンかして欲しいと懇願する美しい女性。どうやらタクシー運転手とトラブルになり、金銭を要求されているらしい。
そこそこの大金を肩代わりしたは男、お礼がわりにちょっと手伝って欲しい事が…。
彼はイ・ソクジン。マジシャンで、彼女は一夜限り舞台で彼の助手をする事に。舞台は大いに盛り上がり、おかげで二人は打ち解ける。行く当てのない彼女のために男は“夜はいつも舞台だから”しばらく自分のホテルに泊まれば良いと提案し、女は迷いつつも世話になる事にした。女の名はチョン・ミヨン。二人はやがて愛し合うようになる。

場面変わって…
第一回公判!


…という感じで、現在の法廷のパートと、法廷で争われている事件が起こるまでを描いた過去のパートが交互に描かれるB2Bスタイルになっています。70年も前の、ちょうど日本統治が終わりを迎えた頃の設定なので、法廷シーンではまだしも、事件のターンになるとかなり古めかしくて今の韓国とは似ても似つかない風景が広がっていますね。当然ギコチナイ日本語もいっぱい聞けますよ。
ストーリーを雑になぞると…
ミヨンは重たいバッグを肌身離さず持っていて、中身は初めて行ったコミケで山程買ったエロ同人誌。警官に職質された時は死ぬかと思った…は、若かりし頃の私のエピソードで(同人誌は先輩の頼まれ物ですよ!!!)、実際は偽札の原盤を持ち歩いています。
↑この原盤は印刷工だった彼女の父が、[オカモトシゲル]を名乗る人物の依頼を受け作ったものだったが、原盤製作後に父は[オカモトシゲル]に殺されてしまう。原盤は父が何処かに隠し、[オカ・シゲ]や警察官の[アベ]が原盤探しに躍起になる中、残された彼女はついに原盤を発見。以来、[オカモトシゲル]の影に怯えて暮らす事を余儀なくされ…。

どうやっても癒すことの出来ない心の傷を負ったソクジンがオカモトシゲルに復讐を誓い、やがて彼と対峙する事に…という過去パートと、法廷パートがどう結びつくかと言えば、
…なんとなくアレかな?と思いましたか?この拙い解説じゃ無理筋ですね。まあ、でも主人公にわざわざマジシャンなんて職業を充てている時点でドンデン返しがある事は明白でして…。

ハッキリ言ってしまうと、ドンデン返しの内容は割と想像が付きやすくて、且つ割としょうもない感じです!…それでも人間ドラマの部分に、頭に焼き付いて離れないような情念の爆発みたいなものが有れば満足出来そうなのですが、いかんせんそこが淡白なのがこの作品の最大の欠点だと思います。
更に、裁判パート。“死体の無い殺人事件”という刺激的なネタながら、法廷闘争に全く緊張感が無く、これといって目新しかったりアクロバティックな論戦なども見られなかったのも印象をボンヤリさせてしまってます。なんかいろいろ勿体ない。
…などと言う書き振りからするとまるでダメな映画みたいですが、そこまで言う気も起こりません。素っ頓狂な役作りに逃げない役者たちには概ね好印象を抱きましたし、美術もなかなか凝っていて見どころは多く有ると思います。何より韓国映画ではあまり見かけない、どちらかと言えば中国映画的なエキゾ感や、過剰になり過ぎない演出は新鮮で、個人的には充分楽しめました。いつもの、既に手堅いという印象すら有る陰惨・怨念系韓国映画の味にちょっと飽きたという方にはお勧めしたいです。そして、…レビューは書きにくい方だと思います!正直、ここ最近で一番手応えの無いレビューに…。うう…