みや

アマンダと僕のみやのネタバレレビュー・内容・結末

アマンダと僕(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

父子家庭で育った、パリに住むアパートの管理人の手伝いをしている二十四歳の心優しいダヴィッド。父も四年前に他界をし、現在はシングルマザーの姉のサンドリーヌ、七歳の姪のアマンダと三人で支え合いながら穏やかに日々を過ごしていた。二十年前に父と離婚をしている母からは、今でもダヴィッドに会いたいと手紙が届いているのだけれど、母に対して今でも蟠りを持つダヴィッドは母に会うつもりは無かった。

そんな母とダヴィッドの関係性を心配するサンドリーヌは、母が住むロンドンのウインブルドンにテニスを見に行こうとダヴィッドを誘う。学生時代にテニスをしていたダヴィッドは勿論、アマンダも大喜び。ママのママに会えるんだよね?けれどやはりダヴィッドはウインブルドンに行っても母に会うつもりは無かった。

そんな中ダヴィッドはアパートにやって来たピアノ講師の美しいレナと出逢い、二人はお互いに惹かれ合う。アマンダもレナを気に入りピアノを習う事になり、サンドリーヌも含めて仲良くなった四人の穏やかで幸せな暮らしがずっと続けば良いなと思うのだけれど、テロの銃乱射事件に巻き込まれたサンドリーヌはある日突然に命を落とす。レナもまた右腕を負傷してしまい、右腕だけではなく心にも深い傷を負う事となる。

父が他界してから四年、ダヴィッドとサンドリーヌは二人で助け合い、寄り添いながら生きてきたのだろうし、ダヴィッドにとってはサンドリーヌは姉でもあり母の様な存在だったはずだと感じる。そんなサンドリーヌを、ある日突然、本当に突然に失ってしまったダヴィッドの哀しみはとても深く、世界で独りぼっちになってしまった様な孤独と不安で心が押し潰されそうだったに違いない。

アマンダも世界にたった一人の母が突然に居なくなってしまって、その深い哀しみと絶望にまだ七歳の小さな心は張り裂けそうだったに違いない。
大人に守ってもらわなければ生きていけない七歳のアマンダ。これからどうなるの?誰が守ってくれるの?施設に入れられるの?誰が側に居てくれるのーそんな不安と恐怖を抱えながら、母が居なくなった哀しみに暮れるアマンダを抱きしめたくなります。

大切な人を喪うという事は、本当に世界の終わりの様な絶望感で、心にぽっかりと大きな穴が開いて、その大きな穴は虚無感で埋められていく。それでも日常は嫌でも覆い被さり、仕事もこなさなければならないし、学校にも行かなければならない。いつまでも哀しみに暮れている訳にはいかない。哀しみに蓋をして淡々と日常を取り戻しながらも時々どうしようもなく涙が溢れてくるのを抑える事が出来ない…この哀しみにどうやって折り合いをつけながら、その先の人生を生きていけと言うのだろうか?

それはやはり時間が解決する、としか言いようが無い。どんなに人から優しくされても、どんなに優しい言葉を掛けられても、深く傷付いた心を癒やす事は決して出来ない。時間が流れる事でしか傷付いた心は癒されないと感じる。
田舎に帰ったレナに、パリに来て欲しいとダヴィッドは望んだけれど、レナはそのダヴィッドの想いにすぐに答える事が出来なかった。それはやはり時間が必要だったからなのだろう。待って欲しい。心が癒されるまで、事件を忘れる事は決して出来ないけれど少しでも心が癒されるまで…

時間は優しい。全ての人に平等に流れていく時間の中で、ダヴィッドはアマンダと生きる決意をする。それがサンドリーヌの願いだと思えたから。そして母に会う決意をする。それがサンドリーヌの望みだったから、アマンダにとっても良い事だと思えたからー

サンドリーヌの計画だったロンドンへの旅を、アマンダと二人で実行するダヴィッド。ウインブルドンのテニスの大会を見ながら、負けている選手に向かってサンドリーヌから教わった「エルビスは建物を出た」という言葉を泣きながら呟くアマンダ。今まで押し殺していた感情が溢れ出る様に号泣するその姿に胸が苦しくなる。
エルビスは建物を出た、もう終わり、ゲームセット。人生は思い通りに行かないー

そんなアマンダをダヴィッドは励ます。諦めたらダメだ、諦めたらそこで試合終了なのだから。負けていた選手が必死で巻き返しを図る。そしてデュースまで持ち込んだ時のアマンダの笑顔。人生は思い通りに行かない、けれど諦めなければ、立ち直るチャンスはあるはずなのだからー
みや

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