エイデン

テルアビブ・オン・ファイアのエイデンのレビュー・感想・評価

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パレスチナ、ラマッラー
第三次中東戦争を目前に控えた1967年を舞台に、祖国パレスチナのためイスラエルの情報を得ようと、身分を偽りイェフダ将軍の元でスパイ活動を行うマナルと、その恋人マルワンの三角関係を描いた女性人気の高いメロドラマ『テルアビブ・オン・ファイア』
その製作スタジオで雑用係兼ヘブライ語の発音指導として働くアラブ人のサラームは、番組プロデューサーのおじバッサムのコネで業界に入ったものの、パッとしない日々を送っていた
そんなある日、サラームはマナル役のフランス人女優タラのシーンで女性の美しさを「爆発的」と表現したことが気になってセリフを変えるよう進言するも、演出家のアテフや脚本のワファから猛反発を受けてしまう
しかしタラがそれに賛成したことで脚本を変えることとなり、彼女の信頼を得ることになるが、製作陣からは目を付けられてしまうことに
その帰り道 東エルサレムにある自宅へ向かうサラームは、国境を越えるため検問所を通っていた
その際 昼間の出来事が気になり、検問を担当していた女性兵士に「爆発的」と言われて嬉しいかを聞いたサラームは、危険人物と勘違いされてしまい、検問所の司令官アッシの下へと連行されてしまう
アッシの質問に対しサラームは、見栄を張って脚本関係の仕事と答えてしまったがため、『テルアビブ・オン・ファイア』の脚本家であると勘違いされる
アッシは『テルアビブ・オン・ファイア』を反ユダヤ的と形容しながらも、妻が作品の大ファンだと明かし、結末はどうなるのかと詰問し、自分と同じイスラエル人のイェフダ将軍とマナルが結婚することを提案され、サラームは適当に話を合わせて解放されるのだった
その日 仕事を終えたアッシが帰宅すると妻や妹が『テルアビブ・オン・ファイア』を観ているところだった
普段は冷めた態度の2人だったが、アッシは脚本家に会ったと言うとすぐに食いつかれる
得意げに物語の結末はマナルがイェフダ将軍と結婚するはずだと返したアッシは、堅苦しい軍人である彼とくっ付くのはロマンティックではないと反発されてしまう
それ以来 ドラマを通してイスラエル軍人である自分の尊厳を取り戻そうとするアッシは、サラームが検問所を通るたびに呼び止めては脚本への口出しを始めるようになり、そのアイディアを現場に持ち込んでみたサラームは意外にも反響を得て脚本家になってしまうが・・・



パレスチナ問題をユーモラスに描いたコメディ映画

長らく続く悲惨な紛争など根深いパレスチナの問題を劇中劇にも上手く取り入れた優れた脚本に支えられた作品

簡単にパレスチナ問題をおさらいしておくと、
今現在イスラエルとして知られる国は、もともとパレスチナというアラブ人の国だったものの、諸々の利権を狙った英米の後ろ盾を得たユダヤ人がパレスチナを塗り潰すようにイスラエルを建国した
居場所を失ったアラブ人達がガザ地区やヨルダン自治区に集まるようになると、それを許さないイスラエルのユダヤ人達との間で戦闘が繰り返されるように
1993年にアメリカの仲介でイスラエルとパレスチナ自治区両国の共存を方針とするオスロ合意が行われるも、それを進めていたイスラエル首相が暗殺され、イスラエルの強行派により合意は反故にされる
以降もガザ侵攻などの紛争が続き、パレスチナ自治区は実質イスラエルによって封鎖されている状況となっている
本作の主人公サラームなど一部のアラブ人達はイスラエル軍が闊歩する中でも昔からの居住地で生活しているのが現状で、監督のサメフ・ゾアビもイスラエル育ちのアラブ人であることを公言しており、肩身の狭い中で育った経験が本作にも表されている

という多くの悲劇を生んだパレスチナ問題を皮肉り、ユーモアに変えながらもその現状を訴える力強さを持つのが本作である
気が弱くアッシに振り回されるサラームと、自信家でサラームを振り回しながらも家族に認められたいアッシを通してアラブ人とユダヤ人の関係性を描いていることも面白い
また劇中劇である『テルアビブ・オン・ファイア』での、アラブ人のマナルとユダヤ人のイェフダ将軍の間で揺れ動くマルワンを取り合う構図(彼女はもともとマナルと恋仲)は、まさにパレスチナ問題そのもの
随所に表れる小ネタを通してアラブ人とユダヤ人の関係性も見えてくるし、監督の意図する両者の文化的な分断というテーマにも触れることができる

またイスラエルともパレスチナともどちらかに偏った描き方をせず、平和的なまとまりに仕上げているのも上手い
両者さまざまな言い分はあれど、『テルアビブ・オン・ファイア』(パレスチナ問題)を平和的なハッピーエンドに導けるのはサラーム(アラブ人)とアッシ(ユダヤ人)だけ
ユーモアに富みながらも、そんな平和への願いが感じられる良作です
観ましょう
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